ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
水面に揺れる光をすり抜けながら、ゆらりゆらりと運河を進んできた船は、やがて目的の船着場へと滑り込んだ。
差し出された手を取り、陸へ上がる。
自然と腕を組み、すっかり冷え切った夜道を歩き始めた。
「そういえば。クリスマスプレゼント、何がいい?」
見上げて尋ねる。
「マナ」
例のごとく真顔で即答され、「そうじゃなくて」と目を細める。
「ていうか……もう全部あげてるでしょ?」
「まだ、足りない」
上目遣いで事実を伝えても、すんとしている。
「なにが足りないの」
「たとえば、……とか、……とか」
冷えた耳元に、わざと熱を込めた低い声が落とされた。
「……そんなのばっかりじゃん!」
小さな拳でその肩をぽすんと叩く私を、ハルはひどく楽しげに見下ろしていた。
「ほしいんだよ」
笑い合いながら、石畳の上、二つの足音を鳴らしながら歩いていった。
まだ足りないのは、私だって同じだ。
部屋へ帰ったら、またソファにぴたりと並んで座り、新しい悪戯を仕掛けたい。
負けてばかりは悔しいから、たまにはそっちが、あの可愛い顔で降参してよ。
そうやってずっと隣で、二人だけの甘ったるい駆け引きを楽しみたいのだ。
―― 本編・完 ――
本作品を読んでいただき、本当にありがとうございます……!
このあと、夫婦のルーツである「一度目」の始まりと終わりを描いた「第零章」があります。
最後までお楽しみいただけたら、とても嬉しいですm(._.)m