因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~
第25話 愛なき夜伽と愛ある忠誠
アゼル率いるデヴィール国軍は、サイベリア国に侵攻すると一日足らずで実効支配した。
その日の夜の就寝前、セレンはアゼルの部屋に呼び出された。しかも寝室に呼ばれるなんて、嫌な予感しかしない。
「あの、何か御用……ですか?」
白いネグリジェを着たセレンは、アゼルのベッドの前に立つと恐る恐る敬語で問いかける。
対して黒い寝間着を纏うアゼルはベッドに腰掛けていたが、急にセレンの片腕を掴んで引っ張る。
「あっ……!?」
セレンはベッドに押し倒されてしまった。目の前に迫るアゼルの赤い瞳は冷徹で愛の欠片は感じられない。
少し前のセレンなら嬉しくて胸が高鳴っただろうが、今の胸の鼓動の速さはその意味とは全く違う。それは『恐怖』であった。
先日はセレンの夜這いを拒絶してきたアゼルが、何の心変わりだろうか。
「明日はウィリアム国を攻める」
この状況でアゼルの口から出た言葉は、なぜか軍事についてだった。押し倒してから言う事ではない。
「は、はい……」
サイベリア国の次に侵攻するのは隣国のウィリアム国。予想通りの流れではあるが、セレンはカインを思い浮かべて胸が苦しくなる。
セレンの感情を置き去りにして、無感情のアゼルは自分の黒い寝間着のシャツのボタンを外し始めた。
「強国だ。貴様の聖力を最大限に高めてやる」
その言葉の意味を理解したセレンは顔を赤らめた……のではなく青ざめた。聖女の能力は『愛』によって高まる。
つまりアゼルはセレンの聖力を高める目的で抱こうとしている。しかしアゼルはセレンを人ではなく武器としか見ていない。
当然、そこにアゼルの愛はない。セレンは怯えるようにして顔を横に振る。
「い、いや……」
「オレは貴様を愛さない。貴様がオレを愛せ」
理不尽な無茶を言うが、それがアゼルの残酷な目的。相思相愛でなくてもセレンがアゼルを愛せば聖力は高まる。
一方的な愛を強要して体だけを重ねようとする。目的のためには手段を選ばない、まさに前世の魔王の人格そのものだった。
「さぁ、セレンよ、言え。オレを愛していると」
さらにアゼルは愛の言葉まで強要してくる。本心ではなくても形だけの愛を作ろうとしている。
脅迫に抗えないセレンは、偽りの愛の言葉を口にするしかない。
「はい……愛して……ます……」
そのセレンの言葉にも心にも本当の愛なんてない。目の前にいるのはアゼルなのに、脳裏に浮かぶのはカインの姿だった。
カインには愛してると言えたのに、唇も重ねられたのに。同じ行為をするのに、なぜ今はこんなにも苦しいのか。
アゼルの瞳が迫り、吐息が触れるほどに互いの唇の距離が縮まる。セレンはその時、自分の本当の心に気付いた。
(私はカイン様を……)
セレンの碧い瞳が涙で溢れていくと、唇が重なる直前でアゼルは動きを止めた。
エリーゼにそっくりなセレンを見ていると、アゼルの脳裏にも強制的にエリーゼの姿が映し出されてしまう。
同時に、セレンの反応に満たされない不快と苛立ちを感じ始める。もしエリーゼだったらアゼルに対して、こう返すだろう。
『あんたなんか、愛してないわよ』
エリーゼのツンデレな否定は本当の愛だとアゼルは理解している。溺愛の呪いが封印されても、愛そのものが封印された訳ではない。
むしろ呪いの効力が封じられている今こそが、アゼルの本当の愛と心が全面に押し出されている。
(くそ、なんでオレはエリーゼを……)
世界征服さえできれば、最強の聖女は誰だって構わない。前世の時からそう思っていたはずなのに、いつからか狂った。
溺愛の呪いでエリーゼの人生を狂わせたアゼルだが、実はアゼルの方がエリーゼに狂わされている。まるで報復、まさに倍返しのように。
結局、アゼルはセレンに触れる事なく自分の部屋へと帰らせた。
その日の夜の就寝前、セレンはアゼルの部屋に呼び出された。しかも寝室に呼ばれるなんて、嫌な予感しかしない。
「あの、何か御用……ですか?」
白いネグリジェを着たセレンは、アゼルのベッドの前に立つと恐る恐る敬語で問いかける。
対して黒い寝間着を纏うアゼルはベッドに腰掛けていたが、急にセレンの片腕を掴んで引っ張る。
「あっ……!?」
セレンはベッドに押し倒されてしまった。目の前に迫るアゼルの赤い瞳は冷徹で愛の欠片は感じられない。
少し前のセレンなら嬉しくて胸が高鳴っただろうが、今の胸の鼓動の速さはその意味とは全く違う。それは『恐怖』であった。
先日はセレンの夜這いを拒絶してきたアゼルが、何の心変わりだろうか。
「明日はウィリアム国を攻める」
この状況でアゼルの口から出た言葉は、なぜか軍事についてだった。押し倒してから言う事ではない。
「は、はい……」
サイベリア国の次に侵攻するのは隣国のウィリアム国。予想通りの流れではあるが、セレンはカインを思い浮かべて胸が苦しくなる。
セレンの感情を置き去りにして、無感情のアゼルは自分の黒い寝間着のシャツのボタンを外し始めた。
「強国だ。貴様の聖力を最大限に高めてやる」
その言葉の意味を理解したセレンは顔を赤らめた……のではなく青ざめた。聖女の能力は『愛』によって高まる。
つまりアゼルはセレンの聖力を高める目的で抱こうとしている。しかしアゼルはセレンを人ではなく武器としか見ていない。
当然、そこにアゼルの愛はない。セレンは怯えるようにして顔を横に振る。
「い、いや……」
「オレは貴様を愛さない。貴様がオレを愛せ」
理不尽な無茶を言うが、それがアゼルの残酷な目的。相思相愛でなくてもセレンがアゼルを愛せば聖力は高まる。
一方的な愛を強要して体だけを重ねようとする。目的のためには手段を選ばない、まさに前世の魔王の人格そのものだった。
「さぁ、セレンよ、言え。オレを愛していると」
さらにアゼルは愛の言葉まで強要してくる。本心ではなくても形だけの愛を作ろうとしている。
脅迫に抗えないセレンは、偽りの愛の言葉を口にするしかない。
「はい……愛して……ます……」
そのセレンの言葉にも心にも本当の愛なんてない。目の前にいるのはアゼルなのに、脳裏に浮かぶのはカインの姿だった。
カインには愛してると言えたのに、唇も重ねられたのに。同じ行為をするのに、なぜ今はこんなにも苦しいのか。
アゼルの瞳が迫り、吐息が触れるほどに互いの唇の距離が縮まる。セレンはその時、自分の本当の心に気付いた。
(私はカイン様を……)
セレンの碧い瞳が涙で溢れていくと、唇が重なる直前でアゼルは動きを止めた。
エリーゼにそっくりなセレンを見ていると、アゼルの脳裏にも強制的にエリーゼの姿が映し出されてしまう。
同時に、セレンの反応に満たされない不快と苛立ちを感じ始める。もしエリーゼだったらアゼルに対して、こう返すだろう。
『あんたなんか、愛してないわよ』
エリーゼのツンデレな否定は本当の愛だとアゼルは理解している。溺愛の呪いが封印されても、愛そのものが封印された訳ではない。
むしろ呪いの効力が封じられている今こそが、アゼルの本当の愛と心が全面に押し出されている。
(くそ、なんでオレはエリーゼを……)
世界征服さえできれば、最強の聖女は誰だって構わない。前世の時からそう思っていたはずなのに、いつからか狂った。
溺愛の呪いでエリーゼの人生を狂わせたアゼルだが、実はアゼルの方がエリーゼに狂わされている。まるで報復、まさに倍返しのように。
結局、アゼルはセレンに触れる事なく自分の部屋へと帰らせた。