終わらない夜に
7.オレンジ
私は名執さんにつり合わない。相応しくない。
ずっとそう思っていた。
だけど、彼が私をまっすぐに見て『一緒にいよう』と言ってくれた。
その言葉を信じて、私も自分の気持ちにちゃんと向き合いたいと思った。
もう一度、その手を取る勇気を持つんだ。
ーーなのに。
『つぐみ、あんたは本当に親不孝だね』
幼い頃から見続けてきた母の姿を、今でも夢に見る。
散らかったままの家の中で母はいつもイライラしていて、私ははけ口のように暴言を吐かれ、叩かれた。
『なんで上手くいかないの!あぁもう、全部あんたのせい!』
『やめて、痛いよお母さん……』
『うるさい!あんたを産んだせいであたしの人生は狂ったの!』
他責思考ですぐ癇癪を起こす、気ままな子供と同じなのだと今となっては思う。
……だけど、その血が私にも流れている。
『この先一生あんたに寄生してやるから!あんただけが自由で幸せに生きられると思うな!』
あんな言葉を吐くような人の血が流れている。
いつか私も同じような言葉を口にしてしまうのだろうか。
愛しいはずの子供に、咄嗟に手を上げてしまうのだろうか。
いつか、私も。
「──み、つぐみ?」
名前を呼ぶ低い声で目が覚めた。
ゆっくり顔を上げるとそこは信号待ちの車の中で、運転席の名執さんが心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「すみません、私寝てた……」
「大丈夫?うなされてたけど」
うなされていたのはきっと、さっきの母の夢のせい。
だけどそんなことは言えず、パッと笑顔を作る。
「実は子供たちが反抗期を迎える夢を見てしまって……中学生になった冬馬にババアと呼ばれたのが衝撃で」
「それは確かにうなされちゃうね」
ははっと笑ってくれる名執さんの横顔に、少し安心した。
目の前の信号が青になり車が走り出す。
視線を窓の外に向けると、大きな道路を挟むように大きなビルが立ち並んでいた。
久しぶりの東京の街並みに、帰ってきたんだと実感する。
東京に引っ越すことを決めてから、やることは山のようにあった。
まずは職場への退職の申し出、周囲への説明。
突然の私の退職話に、会社の人は『まぁあんなことがあったあとだし』と納得しながらも惜しんでくれて、改めていい職場だと再認識した。
子供たちにも説明はしたけれどやはりよくわかってはいないようだ。
だけどこれからはずっと名執さんと一緒にいられることがなによりもうれしいらしく、大はしゃぎしていた。
今日は子供たちを保育園に預けたあと、名執さんとともに新居探しに都内へとやってきた。
保育園や駅に近いところなど、条件に合わせて名執さんがある程度しぼってくれており、『その中からあとはつぐみ目線で決めたほうがいいでしょ』と言ってくれて内見にやってきたのだった。