終わらない夜に
「そういえば、今使ってる家具とかどうするか決まった?」
「はい。次の入居者さんがもらってくれるそうなので、その人に全部お譲りすることにしました」
「ならよかった。捨てるにはどれもきれいだったから、誰かが使ってくれるならうれしいね」
職場に退職の話をしたあと、大家さんにも引っ越しの話をした。
大家さんも寂しがってくれたけれど、ちょうど古民家に住みたいと家を探していた人がいたらしく、その人が入居することとなった。
家具の処分も考えなくてはと思っていたところに一式そのまま引き取りたいとまで言ってもらえて、無事家問題も片付いたのだった。
するとそのとき、どこからかピリリリ……と着信音が聞こえた。
「ごめん、俺だ」
恐らく仕事の電話なのだろう、名執さんはハンズフリーで電話を取る。
「はい、名執です」
『丸尾です。お休みのところ申し訳ございません』
それは凛とした女性の声で、丁寧な話し方から秘書か部下だろうと察した。
「いいよ。なにかあった?」
『あの……急ですが桜川さまがいらしていて』
声をひそめるような言い方をする女性に、その名前を聞いて彼の眉がピクッと動く。
「……またか。わかった、今から行く」
手短に通話を終える彼の顔つきはどこかこわばっているようだ。
どうしたんだろう。
「仕事ですか?じゃあ内見は私ひとりで……」
「いや、すぐ終わらせるからつぐみも一緒に来てもらってもいい?」
「え? 私もですか?」
いいのかな、私がついていっても邪魔なんじゃ……?
そう思いながらも、連れられるがまま名執さんの会社へ向かった。
大手町にある会社に着くと、彼は地下にあるパーキングに車を停めて上階にあるオフィスへ向かった。
ここに来るのは名執さんのお母さんに会ったあの日以来。
あの日のことを思い出してしまい、ついそわそわと辺りを見回してしまう私に、名執さんは察したように言う。
「今日母親はいないから気にする必要ないよ」
「あ……いえ、そういうつもりではなかったんですけど。すみません」
まるで名執さんのお母さんを警戒しているように見えてしまっただろうか。
失礼だったかも、と反省してしまう。
話しながら、【役員室】と書かれた白いドアを開けて中に入る。
木目調の床に白いデスクとソファ、紺色の壁紙。
スマートさと温かみのある内装の中、スーツを着たショートカットの女性がソファ横に立ち待ち受けていた。
「副社長申し訳ありません、お休みのところ。本日は公休であるとお伝えしたのですが、『呼び出してほしい』と譲らず……」
「大丈夫。彼女は?」
「今お手洗いに行かれています」
表情を崩すことなく淡々と答える彼女は、雰囲気からして優秀そうなのが伝わってくる。
私と同じ20代後半くらいだろうけどすごいな。
ついまじまじと見てしまうと、こちらを見た彼女と目が合った。