あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
宛先が、名前になった
水曜は、残業になった。
窓口の名義が戻ってきて、溜まっていた回答を三日ぶんまとめて返す日だった。
二十時を過ぎて、フロアの照明が半分落ちる。
この明かりの落ち方にも、もうすっかり慣れた。
足音が近づいてきたのは、二十時半だった。
篠宮だった。
手に、缶コーヒーが二本。
「今日のは、当たりではありません」
「そんなの最初から知ってます」
差し出された缶を受け取りながら言うと、篠宮の手が、一瞬止まった。
「……なぜですか」
「あの自販機、ルーレットついてないので」
篠宮は缶を持ったまま、黙った。
それから、耳掛けの髪を直した。
(この人、嘘がばれたとき、こういう顔するんだ)
仕事の顔でも、渡り廊下の顔でもない、三つ目の顔だった。
「……知っていて、受け取っていたんですか」
「あとから気づいたんです。それに、それが篠宮さんの優しさだってことくらいわかってます」
プルタブを引く音が、二つ重なった。
「以前、お約束にしないでくださいと言われましたが──」
篠宮が、缶を見たまま続ける。
「──あれを、撤回してもらえませんか」
「……お約束にしたいってことですか」