あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
「はい。残業の日は、二本買います。疲れたあなたに何かしたいんです」
缶コーヒーの約束を、こんなに真剣な声で話してくる人がいるんだな、とおかしくなる。
「じゃあ、条件付きで」
「なんでしょうか?」
「篠宮さんも、ちゃんと晩ごはんを食べること。おにぎりでもいいので」
「……善処します」
しない、とは言わなかった。
この人の「善処します」なら、きっと何かはしてくれるのだろう。
「窓口の件、月曜からと言いましたが」
篠宮は缶を置いて、仕事の声に戻った。
「回答の一次確認は、しばらく私も並走します。量が量なので」
「大丈夫です。窓口は、私なので」
「……そうですか」
引き際が早かった。
もしかしたら、前よりも私の仕事ぶりを認めてくれているのかもしれない。
二十一時半、キリのいいところで、二人ぶんの帰り支度をした。
エレベーターの前で、篠宮が言った。
「駅まで送ります」
「……夜道が危ないから、ですか」
「いいえ」
少しの間があった。
「理由は、ありません。要りますか」
「……要らない、です」
マフラーの中で、口元だけが勝手に緩んだ。
夜道は、傘のときと同じ半歩の距離だった。