あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
第八章 計画
人事部の、倉橋です
工場出張から、ひと月が経った。
個別面談は全部門を一巡し、このみの日々は、回答案の作成と期限管理で埋まっていた。
篠宮に回答案を送ると、翌朝には印刷された紙が机に置かれている。
直しの指示は、山吹色の付箋で貼られて返ってくるのが、いつのまにか習慣になっていた。
──数字の根拠を一行。
──この言い回しは規程と不一致。
事務的な指示ばかりの中に、ときどき、一枚だけ違うのが混ざる。
──この回答は、良い回答です。
その一枚を、このみは捨てられない。
気づけば、自分のノートの裏表紙に、山吹色が三枚、並んでいた。
(……何やってるんだろ、私)
三枚目を貼った日、さすがに自分で自分に呆れた。
呆れたけど、剥がさなかった。
そして、中間説明会の当日。
講堂のパイプ椅子は、八列、十二脚。
(……あの日と、同じ並びだ)
買収が発表された日の説明会から、二か月と少し。
同じ椅子を、同じ向きに並べているのに、あの日より腕が重い。
十一月の講堂は底冷えがして、パイプ椅子の金属が指先に冷たい。
あの日は、何が起きるのか分からないのが怖かった。
今日は、何が起きるのか、半分知っている。
そのほうが怖い。
受付の長机に名簿を置いていると、千夏が椅子を引いてきた。
「またこの並びだね」
「またこの並びだよ」
「なんか、あれから色々ありすぎて、遠い昔みたい」
千夏はそう言って、正面の壇を見た。
演台がひとつ。
今日はファンドの人間は来ない。
登壇者は、一人だけだ。