あなたを手放す予定は、私の計画にありません――冷徹な首切りコンサルに、規定外の溺愛をされています
開場前、篠宮は誰もいない講堂を、後ろの壁から一度だけ見渡した。
マイクの高さを直し、スクリーンの文字を最後列から確認して、それから受付に来た。
「今日は、記録に徹してください。何を聞かれても、答えるのは私です」
「……それも、窓口を一本化して効率化するためですか?」
「そうです」
篠宮は名簿の位置をわずかに直して、壇のほうへ戻っていった。
その背中に、開演前の講堂のざわめきが、少しずつ集まり始めていた。
十六時過ぎ、課長が受付の前を通りかかって、声を落とした。
「倉橋、今日はもう、座ってるだけでいいからな」
「はい」
「部長も俺も、答える側には回らん。全部あっちの人がやる段取りだ。……変な流れ弾だけは、食うなよ」
流れ弾、という言い方に、実感がこもっていた。
この二か月、人事部は流れ弾を食い続けている。
売上が落ちたのも、リストラを断行しないといけなくなったのも、人事部だけのせいではないはずだが、今では、全て人事部のせいになりつつあった。
十七時三十分。
講堂は、あの日より入りが多かった。
九分か、それ以上。
壁際に立つ人の列が、二重になっている。
営業の席に、岡本くんの顔も見えた。
目が合うと、小さく頭を下げてきた。
説明の場はほんとにお願いします、と言っていた約束が、形としては今日、果たされたことになる。
開演の直前、役員席の端に、藤堂常務が座った。
資料も持たず、手ぶらで、にこやかに。
近くの部長職と二言三言交わして、柔らかく笑っている。