スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない

エピローグ

 今日も三基の巨大なシャンデリアが、エントランスで煌めいている。その下、オリオンレジデンスホテル東京のフロントカウンターで、私はロビーを眺めていた。

 ヴィラがグランドオープンを迎えてから、早いもので一か月が経った。
 私は北斗さんの準備してくれた手はずの通りに、新しいクオリティ・マネージャーへと仕事を引き継いだ後、ここオリオンレジデンスホテル東京に戻ってきた。

 ヴィラは相変わらず好調のようで、予約が始まるとともに即完売となる盛況ぶりだ。きっと今日もヴィラのスタッフたちは、最高のおもてなしを実践してくれているだろう。

 私も負けてはいられない。
 今日も滞在を楽しみに訪れたお客様が快適に当ホテルで過ごせるようにと思いを込めて、フロント業務をこなしていく。

 北斗さんは相変わらず忙しそうだ。彼は先日、オリオングループのアミューズメント事業部長に就任したばかり。オリオングループの所有する施設の現地視察へ出かけたり、新規施設の設立着手に奔走したりしているのだ。

 ふと、フロントの向こうでお客様がハンカチを落とされた。

「少し離れるね」

 そこにいた早乙女くんに声をかけ、フロントを出た私はハンカチを拾う。と、向こうからやってきた紳士の手と私の手が重なった。
 顔を上げ、そこにいた人物に目を見開く。

「琴子はもう終業時間だろう? これは俺が届けてくるよ」

 北斗さんはそのまま華麗に立ち上がり、ハンカチの落とし主を追う。
 その様に見惚れてしまいそうになるが、私は慌ててホテルマンの微笑を浮かべ、バックオフィスへと戻った。

「北斗様、今日もスパダリ爆発してましたね!」

 後ろから私を追いかけてきた川西さんが、うっとりしながら私に言う。

「そうね。だけど、バックオフィスではそういうの、あまりよくないかな」

 にこりと微笑みそう言うと、川西さんは「奥様は余裕が違いますね~」と茶化してくる。
 つい立ち止まりきょとんとしていると、川西さんはうふふと笑って「お先です」と奥に消えていった。

「あ、樫江さん。すみません、ここなんですけど」

 声をかけてきたのは森さんだ。もう新人とはいえないくらいに成長した彼女は、バックオフィスの業務もこなしている。今も、パソコンを前にわからないところがあり、私に聞いたのだろう。

「ああ、これは――」

 答えようとしたところで、後方から早乙女くんの声がした。

「森さん、樫江さんはもう上がりだから。俺が代わるよ」

 振り返ると、早乙女くんはすでにこちらに向かってきている。

「ありがとう、早乙女くん」
「旦那さんを待たせたら、申し訳ないだろう?」

 早乙女くんはそう言って私にニッと笑うと、森さんとともに画面を向いてしまった。

 彼なりの優しさなのだろう。
 いつか私も必ず、お返しをする。そう心に決め、私は更衣室へ。さっと着替えて、従業員出入口へと向かった。

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