スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 ホテルを出ると、そこで北斗さんが待っていてくれた。

「お疲れ様、琴子」
「お疲れ様です」

 そう返すと、彼はすぐに私と手を繋いでくれる。指と指が絡まり、心地よい熱が伝わってくる。

「先ほどはハンカチの件、ありがとうございました」
「とんでもない。俺は早く、琴子とふたりになりたかっただけだよ」

 北斗さんはなんてことないようにそう言ったが、私はついドキドキしてしまう。きっといつまで経っても、私は彼にこうしてときめくのだろう。

「それに、今日は琴子を連れて行きたい場所があったから」
「連れて行きたい場所?」

 聞き返すと、北斗さんはにこりと笑って私の手を引いた。

 北斗さんが進むのは、大通りを一本入った小さな路地。それから、石造りの建物の前、真鍮の扉の前で足を止めた。

 ここは、バー88だ。店内で一度も彼に会ったことはないが、もしかして、北斗さんもこのバーの常連なのだろうか。
 疑問を浮かべながら、店内へ。チリンとドアベルが鳴ると同時に、マスターがこちらを振り向く。

「いらっしゃい」

 マスターに、なんて言われるだろう。そわそわと落ち着かないでいたが、マスターは私たちににこりと一度微笑み、「どうぞ」とカウンター席へ促してくれた。

「君は温かいのと冷たいの、どちらにする?」

 そう言うマスターは、もう手元の小鍋で牛乳を沸かしている。

「では、温かいものを」

 北斗さんがそう言った時、マスターは私の前に温かいティフィンミルクを置いてくれた。
 北斗さんがきょとんとこちらを見る。だから私は、苦笑いをこぼした。

「まさか北斗さんも、ここの常連だったなんて」
「もしかして、琴子も……?」

 こくりと頷いた時、北斗さんの前にも湯気の立つ、茶色いカクテルが置かれた。

「どうぞ、ホットトディーです」

 マスターはそう言うと、優しく微笑み私たちの顔を交互に見る。

「丸く収まったようだね」

 その言葉は、なんだか気恥ずかしい。私はマスターに色々と相談をしていたけれど、北斗さんはどうなのだろう。
 つい彼のほうを見ると、北斗さんはマスターに向かって嬉しそうに微笑んでいた。

「おかげさまで。最近の彼女は、もうかわいくて仕方ないです。まあ、愛しいのは前から変わらないんですけどね。ああ、彼女というのは妻のことです」

 北斗さんがそう言って、私の肩を抱き寄せる。そんな彼の言動に、急に顔が火照りだす。
 私は慌てて、ティフィンミルクを喉に流した。優しくて甘くて、柔らかい味はいつもと変わらない。それで、気持ちが少し落ち着く。

「やっぱりそうだったんだね。お揃いの指輪、とってもお似合いだよ」

 マスターの言葉に、私はカップを置いて左手薬指に右手で触れた。一度は手放したリングが、今もう一度ここで光っている奇跡を、愛おしく感じながら。

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