スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
* (side 北斗)
互いの身内への挨拶を済ませてから婚姻届けを提出することに同意し、俺たちは別れた。
琴子さんが、マンションのエントランスを入っていく。それを見届け、俺はハンドルに頭を預けた。
「やられた……」
ため息がこぼれるのに、不思議と口角が上がってしまう。
『私と、偽装結婚しませんか?』
『一度決めたことは、きちんとやり抜きます』
その言葉に、真面目な瞳に、俺の心は揺れていたのだ。
「偽装結婚、ねえ」
優秀なホテルマンである彼女を引き抜きたい一心だったのに、まさかこんなことになるなんて。
「琴子さんは本当に、面白い人だな」
口に出すと、また笑いがこみ上げる。こんな女性に会ったのは初めてだ。
ヴィラに引き抜くための優秀な人材を見つけるため、偽名を使って宿泊客としてあのホテルを訪れた。アメリカからの便が早く着いたため、時間を潰しがてらロビーで従業員たちをそれとなく観察していた。
そこで彼女の急病人に対するてきぱきとした対応力に目を付けた俺は、彼女をプライベートコンシェルジュに指名した。
彼女は思っていた通り、なにを頼んでもきっちりと仕事をこなしてくれた。それだけでなく、さりげない気遣いも欠かさない。
きっと彼女は、特別なことをしているつもりはないのだろう。だけれど、彼女の立ちふるまいや彼女が残す小さなメッセージカードなどを目にして、俺は彼女ならきっとヴィラのクオリティ・マネージャーを不足なく努めてくれるだろうと確信した。
顧客ふたりに怒鳴られ俺が手を差し伸べた時、彼女は自分の不甲斐なさを詫びていた。だが、あの状態でも落ち着いて行動していた彼女に、俺は強さも感じていた。
彼女なら間違いない。そう思ったから、俺は彼女を自身の事業に引き抜いた。そこで、彼女の頑固さも知った。
頑固ということは、それだけやり抜く力があるということ。それも信頼に繋がり、彼女なら確実にヴィラにて最高峰のおもてなしを実現してくれる人材になるだろうと思っていた。
それなのに、どうだろう。
ヴィラ成功のための優秀なクオリティ・マネージャーだと皆に紹介したくて、そして彼女がその責務から逃げないようにと、琴子さんをパーティーに連れていった。
するとそこで、あの令嬢が叫ぶという予想外の行為にうろたえる俺に対し、彼女はそれ以降に続くさらなる予想外な出来事の中でも堂々と、最善を尽くそうとしてくれた。しかもそれを発端に、まさか自分との結婚を申し出るなんて。
彼女に告げたことは、嘘ではない。『打算的』と彼女が言ったから、それなら俺にもメリットはあると示しただけだ。
実際、父や兄に追いつきたい気持ちはある。事業部のトップになるために、既婚者というステータスがどうしても欲しかったのも事実だ。
また、彼女がこの騒動の責任を取って辞めるなんて言い出したらと不安になり、『逃がすつもりはない』とも告げたが、それも事実だ。
今回のヴィラ新設は、オリオングループが総力をあげて挑んでいる。その責任者に抜擢されたのだから、絶対に失敗するわけにはいかないのだ。
彼女が告げた身の上のことも、決して嘘ではないだろう。だけどどこか、琴子さんが俺に結婚を断らせないように気を回したのだとも思わせる。
「『両親を喪っている』か……」
顔を上げ、彼女が住んでいるマンションを見上げる。
オリオンレジデンスホテルに対する思いを聞いた時、彼女は『家族との思い出の場所』と言っていた。
彼女の中に、温かい家族の思い出がある。ならば、俺が〝偽装結婚〟を提案してくれた彼女に報いるためにできることは、できるだけ思い出に近い形の温かい場所をつくることだろう。
「家族になるのだから、きっとそのほうがいい」
俺は呟き、ふうと小さく深呼吸をする。
それから、今後のことを考えつつ、自宅へと車を走らせた。
琴子さんが、マンションのエントランスを入っていく。それを見届け、俺はハンドルに頭を預けた。
「やられた……」
ため息がこぼれるのに、不思議と口角が上がってしまう。
『私と、偽装結婚しませんか?』
『一度決めたことは、きちんとやり抜きます』
その言葉に、真面目な瞳に、俺の心は揺れていたのだ。
「偽装結婚、ねえ」
優秀なホテルマンである彼女を引き抜きたい一心だったのに、まさかこんなことになるなんて。
「琴子さんは本当に、面白い人だな」
口に出すと、また笑いがこみ上げる。こんな女性に会ったのは初めてだ。
ヴィラに引き抜くための優秀な人材を見つけるため、偽名を使って宿泊客としてあのホテルを訪れた。アメリカからの便が早く着いたため、時間を潰しがてらロビーで従業員たちをそれとなく観察していた。
そこで彼女の急病人に対するてきぱきとした対応力に目を付けた俺は、彼女をプライベートコンシェルジュに指名した。
彼女は思っていた通り、なにを頼んでもきっちりと仕事をこなしてくれた。それだけでなく、さりげない気遣いも欠かさない。
きっと彼女は、特別なことをしているつもりはないのだろう。だけれど、彼女の立ちふるまいや彼女が残す小さなメッセージカードなどを目にして、俺は彼女ならきっとヴィラのクオリティ・マネージャーを不足なく努めてくれるだろうと確信した。
顧客ふたりに怒鳴られ俺が手を差し伸べた時、彼女は自分の不甲斐なさを詫びていた。だが、あの状態でも落ち着いて行動していた彼女に、俺は強さも感じていた。
彼女なら間違いない。そう思ったから、俺は彼女を自身の事業に引き抜いた。そこで、彼女の頑固さも知った。
頑固ということは、それだけやり抜く力があるということ。それも信頼に繋がり、彼女なら確実にヴィラにて最高峰のおもてなしを実現してくれる人材になるだろうと思っていた。
それなのに、どうだろう。
ヴィラ成功のための優秀なクオリティ・マネージャーだと皆に紹介したくて、そして彼女がその責務から逃げないようにと、琴子さんをパーティーに連れていった。
するとそこで、あの令嬢が叫ぶという予想外の行為にうろたえる俺に対し、彼女はそれ以降に続くさらなる予想外な出来事の中でも堂々と、最善を尽くそうとしてくれた。しかもそれを発端に、まさか自分との結婚を申し出るなんて。
彼女に告げたことは、嘘ではない。『打算的』と彼女が言ったから、それなら俺にもメリットはあると示しただけだ。
実際、父や兄に追いつきたい気持ちはある。事業部のトップになるために、既婚者というステータスがどうしても欲しかったのも事実だ。
また、彼女がこの騒動の責任を取って辞めるなんて言い出したらと不安になり、『逃がすつもりはない』とも告げたが、それも事実だ。
今回のヴィラ新設は、オリオングループが総力をあげて挑んでいる。その責任者に抜擢されたのだから、絶対に失敗するわけにはいかないのだ。
彼女が告げた身の上のことも、決して嘘ではないだろう。だけどどこか、琴子さんが俺に結婚を断らせないように気を回したのだとも思わせる。
「『両親を喪っている』か……」
顔を上げ、彼女が住んでいるマンションを見上げる。
オリオンレジデンスホテルに対する思いを聞いた時、彼女は『家族との思い出の場所』と言っていた。
彼女の中に、温かい家族の思い出がある。ならば、俺が〝偽装結婚〟を提案してくれた彼女に報いるためにできることは、できるだけ思い出に近い形の温かい場所をつくることだろう。
「家族になるのだから、きっとそのほうがいい」
俺は呟き、ふうと小さく深呼吸をする。
それから、今後のことを考えつつ、自宅へと車を走らせた。