スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない

*(side 北斗)

 年末も仕事納めを過ぎると、従業員は正月休みに入る。俺は誰もいないオフィスで、ヴィラについての確認作業をしていた。

 家にいても、ひとり。琴子は仕事だ。ホテル業界が年末年始に忙しいことを俺も知っているから、それを咎めるつもりはない。
 だが、彼女がいないなら家にいても意味がない。だから、こうして仕事に繰り出してきたというわけだ。

 まさか、こんなに寂しがりだったとは。自分の新たな一面に、苦笑いをこぼす。
 琴子と出会い、偽装結婚を始めてから、知らない自分に幾度も出会っている。それが、不思議で仕方ない。

「最初は、こんなつもりじゃなかったんだけれど」

 どうせ、誰もいないオフィスだ。俺はそう呟きつつ、自然に口角が上がるのを感じた。彼女との結婚してからの毎日を、思い出しながら――。

 最初は、彼女への同情だったのかもしれない。両親を喪った過去を持つ彼女に、できるだけ思い出に近い形の温かい家庭をつくろうとしていた。
 もちろん、同情しろと言われたわけじゃない。『偽装結婚しませんか?』と提案までしてくれた彼女に報いるには、それが一番だと思ったのだ。

 だけど、俺には温かい家族というのがよくわからなかった。
 オリオングループを背負っていた両親は忙しく、俺が幼い頃から家にいることがほぼなかった。俺は手伝いの人間に家事など世話をしてもらうことがほとんどで、専属がいるわけでもなかったのだ。

 だからこそ、琴子の顔を見て、答え合わせをしていたつもりだった。

 同居初日は、彼女が住みやすいようにと寝室を彼女の部屋にするつもりで、引っ越し業者に荷物の運び入れをお願いした。だがやってきた彼女は、顔を陰らせる。
 これではダメだったのかと、俺はその後も彼女を観察し、彼女が笑ってくれるように努めた。彼女が笑ってくれると、それで正解だったのだと安堵していた。

 それだけの、はずだったのに。

 琴子は思った以上に頑固で、俺との生活をなるべくフェアにしようとしてきた。さらに真面目で努力家な部分が相まって、家でも家事に仕事にと励む始末だ。
 それが彼女の、彼女たる部分なのだろう。確実にやり遂げるからこそ、任せられる安心感と信頼感。さらに周りを見ているゆえの行動力。彼女とともに暮らし始め、彼女のことをどんどん知った。

 そこまで頑張らなくてもいいのにと思うほど、頑張る。彼女の伯父に挨拶した時の、彼の言葉通りだと思った。
 そして同時に、彼女が周りに与える安心感は、圧倒的な努力の上に成り立っているのだとも知った。それで、俺はもっと琴子に安らいでほしいと思うようになった。

< 61 / 105 >

この作品をシェア

pagetop