スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
 雪で路面が凍結し、車での帰宅が困難になったあの日。帰宅したリビングで寝ていた琴子をベッドまで運んだ時は、さすがにこたえた。

『こんなになるまで、頑張るなよ』

 抱き上げた彼女の軽さに、思わずそんなことを呟いてしまったほどだ。

 そしてそんな俺の気持ちは、その翌日、彼女が同僚男性に告白されている場面を見たことで爆発してしまった。
 俺たちは、偽装の関係。そのことを忘れてしまうほど、俺の体は暴走した。

 告白される彼女のもとと走り、彼女の名前を呼ぶ。呼び捨てにしてしまったのは、俺の内なる独占欲のせいだと思う。
 あの時は落ち着けと自分に言い聞かせ、いつもの俺で対応した。

 だけど、彼女が笑みを見せるのは俺だけがいい。リビングで寝てしまうほど頑張り屋であることも、俺だけが知っていればいい。いつの間にかそう思ってしまうほど、俺は彼女に惹かれているのだと思い知った。

 頑張り屋の彼女が少しでも安らげれば、そして俺を意識してもらえたらと、彼女をクリスマス前に〝視察〟に連れていった。
 彼女は仕事視点になってしまうことがありつつも、俺の態度にいちいち頬を染めたり、嬉しそうな顔をしたりする。その表情に、俺は心を鷲掴みにされた。

 ――思い出せば思い返すほど、彼女の顔が脳裏にあふれる。その度に頬が緩み、毎日会っているはずなのに、彼女に会いたくて仕方がなくなる。

「人を好きになるというのは、こういうことなんだろうな」

 一生自分と無縁だと思っていた、恋する気持ち。それが自分の妻との間に芽生えるなんて、なんて幸運なのだろう。

 ちらりと窓の外を見る。もうすっかり、日が暮れていた。
 年末でも輝きを放つ、都心のビル群。なのに、今夜の俺はひとりだ。

 琴子は今日、久しぶりの夜勤だ。本社とホテルの往復になるからとしばらく外してもらっていたらしいが、年末は人手が足りなかったらしい。それを易々と引き受けてくるところも、琴子らしいけれど。

 俺はパソコンの電源を落とすと、席を立った。さすがに夜通し会社にいるというのも、妻帯者としてどうなのかと思う。
 だが、真っ直ぐに家に帰るのも躊躇してしまう。あの家にいたら、琴子に会いたくなってしまうから。

 だったら……バーにでも寄って、帰ろうか。
 俺は日本に戻ってきた頃に立ち寄った、裏路地にひっそりと佇むバーを脳裏に思い浮かべる。あそこは、今日もやっているだろうか。

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