スパダリ御曹司はスパダリ偽装妻を溺愛で囲い逃がさない
「はい?」

 川西さんが怪訝な顔をする。

「あのね。友人は男友達とお酒を飲んでいて、雰囲気に流されてキスされたみたいなの。それが嫌だったわけじゃないんだけど、今の関係を壊すのが怖いから相手にその理由を聞けないでいるって、相談を受けていて。私はあまり色恋に聡くないから、川西さんならどう考えるかな、と思って」

 続けて言うと、川西さんは「なるほど」と顎に人差し指を置く。そのまま少し考えた後、口を開いた。

「悪酔いしてキス魔になる、という方でなければ、それは高確率で好きだという意思表示だと思います」

 彼女の言葉に飛び出そうになった驚きの声を必死にのみ込み、私は彼女にうんうんと頷いた。すると川西さんは顎をとんとんと指で叩きながら、続けて言う。

「とはいうものの、お相手がどんな方なのかわからないので、そうとは言い切れません。でも、ご友人はキスされたのが嫌じゃなかったんですよね? それはつまり、ご友人のほうは確実にお相手を意識されている、ということですよね」

 私は平静を装いながら、川西さんの言葉を聞いていた。

 だが聞けば聞くほど、脳がショートを起こしそうになる。彼女の言うことはつまり、私が北斗さんを意識しているということだ。

「樫江さんだって、どうでもいい相手に触れられたら嫌だと思いません? 私が思うに、それ、両片思いなんですよ。いいなあ、恋愛漫画なら一番美味しい展開」

 川西さんはペラペラと続けるが、私の頭にはまるで入ってこない。

「相手が好きなら、怖がっていないで行動に移すべきだと思います。が、それって外野だから言えることなんですよね。ご友人の恋を、私も応援しますよ」

 きらりとした笑顔を向けられ、彼女の話が終わったのだと悟る。

「ありがとう。彼女に伝えておくね」

 笑みを浮かべながら川西さんに伝え、着替えを終えると私たちはともにバックオフィスへと向かった。

 いつものように、確認事項を頭に叩き込む。だけど頭の別のところでは、先ほど川西さんと話したことがくるぐる駆け巡っていた。

 ――私は、北斗さんを好き。

 脳内でそう文字にしてしまえば、はっきりと意識してしまう。
 そして彼への恋心を認識してしまった今、私はこの先彼との偽装結婚をやっていけるのかという不安に駆られる。

 いやいや、弱気になっていてはダメ。始業時間が迫り、私は自分に言い聞かせた。

 自分から申し出た仕事くらいは、きっちりこなしたい。ヴィラのクオリティ・マネージャーも、ホテルマンの仕事も。
 私は改めて気合を入れて、今日もフロントへと向かいいつもの微笑を浮かべた。

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