さようなら、お別れしましょう
50 父の訪れ(1)
 
 まさか、父自身がグランツエルデ王国へやってくるとは思わなかった。
 五つ目の【契約】を教えてもらえないまま、私はドーヴハルク王国からやってくる父を王宮で待つようイーザック様に命じられた。
 そして、なぜか別居前に使っていた部屋とは別の部屋を与えられた。

 さらにイーザック様から、花やドレス、アクセサリーなどが届き、違和感と戸惑いしかない。

 ――なぜ、今になって……?

 そう思ったのは、私だけではなかった。

「ここは以前と同じ部屋ではありませんわね」

 父が到着する前に、シャルク・ホジャにいたジェレンと侍女たちが、大急ぎで王宮へやってきた。
 私のそばに、自分がつけたはずの侍女がいなければ、父がなにかおかしいと、勘づくに違いない。
 とはいえ、抜け目のない父のことだから、すでに私が別居されたことも、イーザック様が新しい妻を迎えたことも知っているはずだ。

 ――やってきて、私に正妃としての役目を果たすよう命じるはず……

「なんというか……。この部屋は豪華ですけれど、薄暗くて重々しい雰囲気ですわね。それに、テーブルにはひっかいたような傷がありますわ……」

 ジェレンは部屋を眺め、浮かない顔をした。
 金の装飾が施された立派な木のテーブルは、ジェレンが言った通り、爪でひっかいたような細い線が残っている。
 私を部屋に案内した侍従の説明によれば、歴代の王妃が使っていた部屋だという。
 この部屋には、戦いを描いた絵画や豪奢な金の刺繍が施されたカーテン、金の燭台、神々の天井画が描かれている。
 天井にはクリスタルシャンデリアがきらめき、部屋は明るく美しく贅沢なもの。
 素晴らしい部屋だけど、私たちはシャルク・ホジャのお屋敷へ戻りたいと思っていた。

 ――シャルク・ホジャに帰りたい……。ゼリヤやハリル、町役場の人たちは元気でいるかしら?

 窓の外をぼんやり眺めた。
 前の王が、王妃のために造らせたという薔薇園には、見事な薔薇の花が咲いている。
 
「レフィカ様。もしかしたら、この豪華な部屋は王妃が使う部屋かもしれませんね。でも、いったいどんな風の吹きまわしで、こんな待遇になったのでしょうか?」

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