恋のメンテナンスは必要ですか?

第七話 「……え」


 彩の職場は最寄り駅から、東へ歩いて5分。
 都心から少し離れた位置にある職場は土地も広く、歯科にしては大きい院だった。
 彩は建物の裏へと周り、外階段を登る。
 
 暗証番号を入力するとピロリンっと軽快な音が鳴った。
 ガチャンと鍵の外れる音が聞こえ、扉を開ける。

「おはようございます」
 
 スタッフルームでは同僚たちが各々好きなように休憩を過ごしていた。

「彩。どうだったんだよパーティー」
「……」
 
 彩は靴箱に手をつきながら、死にそうな顔で樹を見つめる。

「おぉ……過去最高のへばり具合じゃん」
 彩の体調不良を面白そうに笑う樹。
 
 
 医療ドラマでもよく見るような青いスクラブを着た黒髪ベリーショートの男。
 フレッシュで親しみやすい顔をした星野樹(ほしの いつき)というこの男は彩の大学時代からの友人だった。
 お互い大学を卒業後、歯科衛生士として同じ医院に就職。
 樹は男性の歯科衛生士という珍しさもあり、患者からの担当指名が絶えない人気スタッフ。

 彩は自分の不幸を笑う樹に刺すような視線を送るが樹はそれすら面白いように笑う。
 予想通りの樹からの反応に、ため息を吐きながら自分のロッカーへ向かった。

 ロッカーの扉に手をかけるとロッカーのそばで休憩していたピンクのスクラブを着た女性がこちらを向く。

「先輩、おはようございます」
「杏菜ちゃんおはよう」
「婚活パーティーに行ってたんですか?」
「え?!行ってないよ?!」

 どこから『婚活』ってワードが出てきたのか、彩は驚く。

「だってさっき樹先輩がパーティーって」

 
 杏菜は去年入社きたばかりの新人歯科衛生士で。
 若く愛らしい彼女は愛想もよく、特に男性から人気があった。
 SNS好きな彼女にはパーティーという単語は耳に引っかかったのかもしれないが。
 一方的に婚活と決めつけられたような気もして複雑な気持ちになった。

 杏菜の言葉に反対側で休憩をとっていた樹が「ちげーよ」と訂正する。
 
「こいつの親父さんが仕事の関係でよくパーティーに誘われるんだと。その付き添いが彩ってわけ」

「へぇ……そんなのあるんですか。」

「一般人には程遠い世界だよな」

「ちょっと。変な言い方しないで。うちは普通の一般家庭だし、父親の仕事が営業だから仕方なく……」

「それでもパーティーなんて何だか羨ましいです。私も行きたい〜」

 杏菜は唇を尖らせながら拗ねたように声をうねらせる。
 「あはは……」と誤魔化しながらロッカーの中にしまっていた白のスクラブを持って更衣室へと移動した。
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