恋のメンテナンスは必要ですか?
 *


 着替えを終えてみんなより先に一階の受付に向かった。

 今日の予約状況を確認するために受付のパソコンを触る。マウスで画面をスクロールしていると背後から急に肩を触れられた。

「今日は新規が一件入ってるぞ」
「樹。まだいじり足りなくて早めに降りてきたの?」
「拗ねてんのか?悪かったって。別に、彩をいじるために降りてきたわけじゃねーよ」
「じゃあまだ休憩してれば?あと20分くらいはあるでしょ」

 彩はあしらうように樹へ言葉を返す。
 いつも通りにあしらわれた樹は鼻で軽くため息を吐きながら苦く笑った。

 彼は急に真剣な目で彩の背中を見つめ、彼女の座っていた椅子をクルッと自分の方に向けさせる。

「ちょっ!ちょっと!」
「……二日酔いはパーティーで飲みすぎただけか?」
「……何でそんなこと聞くの」
「いや、何となく。……男と飲んでたわけじゃねーよな?」

 彩の体が反応してわずかに震える。
 その仕草に樹は眉を顰めた。

「は……?マジで男と飲んでたのか?」

 追い詰めるように彩の椅子を両腕で囲っていた樹は彼女の反応に気づき動揺した。
 本当に彩が男と飲んでいたとは思っていなかったのか、彼の瞳が揺れる。

「っ……樹には関係ないでしょ。確認作業の邪魔だからあっち行って。」
 
 彩は樹の腕を払い、椅子を回して元に戻す。
 昨日の失態を忘れようと必死に気を紛らわしていたのに、樹に掘り返されて気分が悪かった。
 
 (なに……彼氏でもないのに毎回確認してきて……)

 苛立ちを抑えながら今日の患者を確認していく。
 自分の患者受け持ち欄に新しい名前が追加されていた。

「……え」

 その名前に手が止まる。
 きっと違う。違うはず。

 そう思いながら打ち込まれた名前を見つめた。

 
 ——
   【    】
 新規【神崎 翔】
   【    】
 ——


  (……私の職場知ってるわけない……よね?)
 
 予約は午後一番。
 同姓同名であることを祈るしかない。


 カウンターに置かれたパソコンを見つめる彩の後ろで、樹は神妙な面持ちで苦しそうに拳を強く握っていた。
 
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