恋のメンテナンスは必要ですか?
第三十二話 「赤い箱のお菓子」
仕事最終日は午前で診療を終え、午後からは大掃除に入っていた。
受付の締め作業を三樹に任せ、彩は二階の在庫室へ。
作業中。
クリスマスの夜を思い出し、顔が赤く染まる。
翔から求められ、朝まで寝室で過ごしたあの日。
次の日の仕事は腰が痛くてしんどかったが、幸福感のが強かった。
樹とは顔を合わせた時、気まずくなるかと不安だったがそんなことはなく。
いつも通り。
彼は軽口で彩をいじってきた。
めんどくさいと思っていた絡みがその時はとても嬉しくて。
『よかった』と心の底から安堵した。
彩は在庫の確認作業をしながら無意識に呟く。
「翔さんが私の彼氏だなんて……」
(……ん?)
(あれ……)
彩は気づく。
「好きとしか言ってないけど付き合ってるん……だよね?」
翔から言われた『付き合ってほしい』の言葉。
その言葉に『はい』とは返していないものの、好きと伝えた。
だから伝わっているはず……はずだけれど。
『俺だけの彩になってほしい』
それは彼女になって欲しいという意味で合ってるのか。
今までの恋愛で勝手に自分で思い込んで違うことも多かった彩は、はっきりとした言葉のない状況に不安を感じた。
ざわざわとした落ち着かない気持ちが彩を襲う。
どうしよう。
今すぐに確認したい衝動に駆られるがまだ仕事中。
モヤモヤに胸が支配された。
「考えすぎて気持ち悪くなってきた……」
一人で在庫室の備品をチェックしながら不安からくる気持ち悪さと戦った。
(もうあと数十分……仕事を上がってから電話……いや、家に帰ってきてからのがいいよね……)
自然とペンを持つ手にも力が入る。
「はぁ……」
ため息。
考え事をしていたせいで扉が開いたことにも気づかなかった。
「大きいため息ですね?」
急に後ろから現れた声に驚き、振り返る。
壁にもたれながらこちらを不機嫌そうに見つめていたのは杏菜だった。