恋のメンテナンスは必要ですか?
「杏菜ちゃん……びっくりした……」
「帰りのミーティング、するって三樹さんが呼んでました。」
「あ、ありがとう。今行くね。」
彩は急いで数えていた備品を片付け始める。
その背中を見つめていた杏菜はそっと近寄り「樹先輩とクリスマスデート行ったんですか」と不満げに彩へ聞いた。
「なっ?!なんで?!」
「なんでって、三樹さんに誘われてましたよね?」
……そうだった。
しかも、その話を職場の駐車場でしていた。
全員が知っていなくとも、樹のことを気にしていた杏菜の耳に入らないわけないかと反省する。
「行ったよ。行ったけど……」
「なんですか。惚気ですか?」
「いや、全然違くて……」
「……樹先輩、彩先輩に告白でもしたんですか?」
ぎくっと。
杏菜の鋭さに息を呑んだ。
わかりやすい反応を返す彩に杏菜は「ふーん。樹先輩、告白したんだ」と追い討ちをかけた。
「……。」
黙り、頬の横に汗をかく。
なんて返すべきか悩んでいる間にも杏菜はずけずけと遠慮なしに聞いてきた。
「彩先輩はどうしたんですか?」
「私は……」
言いかけると杏菜が焦ったように「やっぱりいいです。言わないでください」と強く彩の先の言葉を止めた。彼女は胸をざわつきを抑えるように瞳を迷わせている。
「聞いたら、辞める決意が揺らぎそうなので。聞きたくないです。」
彼女はその場から逃げるように踵を返す。
去り際、杏菜は思い出したように彩へ近づき、ポケットに何かを入れた。
急に渡された何かに彩は「え?なになに?」と確認のために手を入れると杏菜はそれを阻止する。
恥ずかしそうに顔を赤く染め、吐き捨てるように彩へ言った。
「忘れてるみたいですけど、私は今日で退職しますので。それ!私がいる前で出さないでくださいね!!」
言うだけ言って彼女は去っていく。
恥ずかしさから逃げるように足早に。
杏菜が去った後、彩はポケットの中身を確認した。
そこに入っていたのは彩の好きな赤い箱にメッセージの書かれたお菓子。
箱には『ありがとうございました』とメッセージが書かれていた。
手のかかる後輩からの最後のプレゼントに思わず笑みが溢れる。
「もう……素直じゃないなぁ。」
杏菜のおかげで不安な気持ちはどこへやら。
穏やかな気持ちで帰路を辿った。