光のはじまり ― 王子が困るまで ―
第33話 ルームシェア
『仮住まいです』
何度かメッセージを交わした末に届いた返信を見て、理久は少し笑った。
ホテル扱いをからかったつもりが、彼女は最後まで律儀だった。
仮住まい。
確かに、そのとおりだ。
彼女は今、自分の部屋に帰れない。こちらが何かを期待していい状況ではないし、彼女が気を遣って息苦しくなってしまっては、部屋を貸した意味もない。
理久は短く返した。
『うん。それでいい』
それ以上は、からかわなかった。
◇
数日が経った。
綾瀬美月には、彼女自身の生活がある。
日勤もあれば、準夜勤も深夜勤もある。理久も手術や当直があり、二人の生活時間は思ったほど重ならなかった。
ハウスキーパーには、彼女の勤務や睡眠を妨げないよう、清掃の時間を調整してもらった。ゲストルームも、本人に確認したうえで、不在の時間に整えてもらう。
ゲストルームを使わせていることを実家が知れば、何かと勘繰られるかもしれない。
……まあ、いいか。
最近しつこくなってきた見合い話が少し減るなら、それはそれで都合がいい。
もちろん、それを目的に泊めているわけではない。
理久は小さく笑った。
何でも理由に変える癖は、なかなか抜けないらしい。
同じ家にいても、顔を合わせない日は珍しくなかった。
洗面所に彼女のものが増え、冷蔵庫には見慣れない食品が入る。
キッチンは、使ったあと必ず元に戻されていた。
……律儀だね。
理久は、別に気にしなくていいのにと思った。
けれど、そうやって線を引く方が彼女も落ち着くのだろう。
『作りすぎた』とメモを添えて、冷蔵庫にスープを残した日もあった。後から届いたのは、やはり律儀なお礼のメッセージだった。
玄関から続く廊下の小さな灯りは、最近、消さずにおくようになった。
準夜勤や深夜勤を終えて戻る彼女が、暗い中でスイッチを探さずに済む。
それだけのことだった。
ならば、自分も普段どおりにしていればいい。
そう思っていた。
◇
別の日、理久は予定より少し早く帰宅した。
リビングで資料を読んでいると、玄関の方で鍵の開く音がした。
……あれ。
今日、日勤だったっけ。
当直明けで、少し日付感覚がずれていたらしい。こちらが家にいる時間に、彼女が帰ってくるとは思っていなかった。
靴を脱ぐ音がする。
理久はタブレットを置き、声をかけた。
「おかえり」
何度かメッセージを交わした末に届いた返信を見て、理久は少し笑った。
ホテル扱いをからかったつもりが、彼女は最後まで律儀だった。
仮住まい。
確かに、そのとおりだ。
彼女は今、自分の部屋に帰れない。こちらが何かを期待していい状況ではないし、彼女が気を遣って息苦しくなってしまっては、部屋を貸した意味もない。
理久は短く返した。
『うん。それでいい』
それ以上は、からかわなかった。
◇
数日が経った。
綾瀬美月には、彼女自身の生活がある。
日勤もあれば、準夜勤も深夜勤もある。理久も手術や当直があり、二人の生活時間は思ったほど重ならなかった。
ハウスキーパーには、彼女の勤務や睡眠を妨げないよう、清掃の時間を調整してもらった。ゲストルームも、本人に確認したうえで、不在の時間に整えてもらう。
ゲストルームを使わせていることを実家が知れば、何かと勘繰られるかもしれない。
……まあ、いいか。
最近しつこくなってきた見合い話が少し減るなら、それはそれで都合がいい。
もちろん、それを目的に泊めているわけではない。
理久は小さく笑った。
何でも理由に変える癖は、なかなか抜けないらしい。
同じ家にいても、顔を合わせない日は珍しくなかった。
洗面所に彼女のものが増え、冷蔵庫には見慣れない食品が入る。
キッチンは、使ったあと必ず元に戻されていた。
……律儀だね。
理久は、別に気にしなくていいのにと思った。
けれど、そうやって線を引く方が彼女も落ち着くのだろう。
『作りすぎた』とメモを添えて、冷蔵庫にスープを残した日もあった。後から届いたのは、やはり律儀なお礼のメッセージだった。
玄関から続く廊下の小さな灯りは、最近、消さずにおくようになった。
準夜勤や深夜勤を終えて戻る彼女が、暗い中でスイッチを探さずに済む。
それだけのことだった。
ならば、自分も普段どおりにしていればいい。
そう思っていた。
◇
別の日、理久は予定より少し早く帰宅した。
リビングで資料を読んでいると、玄関の方で鍵の開く音がした。
……あれ。
今日、日勤だったっけ。
当直明けで、少し日付感覚がずれていたらしい。こちらが家にいる時間に、彼女が帰ってくるとは思っていなかった。
靴を脱ぐ音がする。
理久はタブレットを置き、声をかけた。
「おかえり」