バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
第14話:勝利の女神
鷹木の真剣な視線に戸惑いながらも、詩織は素直に答えた。
「え、だってほら、手すりとスロープの付け替え工事費だけで30億円って。すごい数字ですものね?」
詩織が資料の一角を指差すと、鷹木は顎に手を当てたまま、じっと考え込み始める。
いつも見せてくれる柔和な表情とは明らかに違う、張り詰めた空気をまとう彼の姿に困惑しながら、詩織はその横顔を見つめる。
「……そう。うん、たしかにすごい数字だ」
低く呟くような鷹木の声には、明確な重みが混じっていた。
「うちも去年手すりの付け替え工事をしたんですけど、150万円もしたんです。スロープを付け直すと倍くらいしちゃうから、翌年に回そうって。だから……その何倍かしら」
詩織は自分の職場の記憶を必死に手繰り寄せながら、言葉を繋いだ。
もちろん、対象となっている会社の規模や施設の広さによって金額に違いは出るだろう。けれど、目の前の書類に並ぶ数字は、それらを加味しても途方もないものに思えた。
「30億円。両方付けても1000倍……なるほど。他にも、何か気になることはあるかな?」
鷹木は手元の資料を次々とめくり、詩織の前に並べていく。
しかし、専門的な知識を持たない詩織には、それ以上のことは何も読み解けそうになかった。
「ごめんなさい、お役に立てなくて」
急にしゅんとした気持ちになり、詩織は肩を落として小さく俯いた。
「いや、そんなことないよ。本当に、詩織さんのおかげでヒントをもらえた」
鷹木はそう言って視線を書類に戻したが、その眉間の皺は刻々と深くなっていく。
何かの端緒を掴みかけていながら、いろいろな可能性を考える。彼の表情には、そんなもどかしさが滲み出ていた。
なんとか彼の力になりたい。
詩織はほんの少し身を乗り出し、思いついたことを口にしてみた。
「……わたし、施設に行って何か見てきましょうか? 交流会の企画とか理由をつければ、中に入ることはできます」
「いやいや、詩織さんを巻き込むわけにはいかないよ」
鷹木は即座に首を振り、強い調子でそれを拒んだ。
「あ、あと、その施設に入っている非常勤の看護師さんが知り合いなんです。彼女に何か聞いてみましょうか?」
「いやいや、本当に大丈夫、後はこっちで…………今なんて言った?」
それまで資料に落とされていた鷹木の視線が、弾かれたように詩織へと向けられた。
「彼女に聞いてみましょうか?」
「その前」
「中に入ってきて、見てきましょうか?」
「そうじゃなくて」
「……非常勤の看護師さんが知り合いで?」
「それ!」
鷹木の大きな声が、リビングに響いた。
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