バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される

 日の光が大きく差し込む、官庁の一室。長机が並ぶ会議室には、重苦しい空気が満ちていた。

 机の端に座る部長と参議官が、厳しい顔つきで手元の資料を読み込んでいる。
 その対面には、鈴川法律事務所の所長である鈴川と鷹木が、真っ直ぐに背筋を伸ばして立っていた。

「手すりとスロープの付け替え工事費の水増し、実際には雇っていない人員の名を利用した助成金の架空請求の疑いが見つかりました」

 鷹木の通る声が、静まり返った室内を満たしていく。
 用意してきた精緻な報告書を指し示しながら、淡々と、しかし確実な論調で説明を続けた。

「助成金の不正取得、および工事会社からキックバックを受け取っている可能性を視野に、調べていく必要があります」

 その言葉を聞き、部長は深く息を吐きながら眼鏡を外した。

「わかりました。局長には私から伝えましょう。決算書類の指摘となると、金融庁の方とも連携しないと」
「……大きな事件になるな」

 参議官が横からぽつりと呟き、白髪の混じる頭を重そうに振った。


 詩織が何気なく口にした、手すりの付け替えに150万円と言うリアルな目安額。
 彼女の知人である看護師が、非常勤であるという事実。

 断片的な情報だが、調べるとっかかりとすれば十分だ。

 500施設での工事費30億円は、見方によっては妥当だが、内容によっては多すぎる。
 全ての所有施設で一気に工事をするわけでもない。適正価格よりあきらかに多く支払った工事代金が、どの口座にどんな名目で横流しされているかは今のところ不明だが、丁寧に調べればいずれ明らかになるだろう。

 看護師はほぼすべての施設で常勤が3名以上と表記されていたが、おそらく、架空の名前だ。詩織の話によれば、少なくとも例の施設には、週一回非常勤の看護師が来るだけだという。
 看護師の雇用に関しては助成金が支給されていた。国から支払われる助成金の不正取得は、極めて罪が重い。


 長く張り詰めた会議が、ようやく終わりを告げた。席を立った部長が、感銘を受けた様子で鷹木に歩み寄ってくる。

「いやぁ、さすが『全方面負けなし』と噂される鷹木くんだ。素晴らしい観察眼だな、恐れ入ったよ」
「いえ、とんでもないことでございます」

 鷹木は小さく頭を下げた。
 横に立つ鈴川も、誇らしげに笑みを浮かべている。

「裁判になってもぜひ助けてくれたまえ」

 そう言い残し、彼らは部屋を出る。
 鈴川は鷹木の肩をパシッと叩いた。

「いやぁ調子良いね鷹木くん。福岡の件も早々に片付けちゃたし、絶好調じゃない」
「ええ。……勝利の女神のおかげです」

 鷹木はそう言って、少し遠くを愛おしそうに見つめるように、そっと目元を和らげた。



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