バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
「すごい。決算資料も読めるんですね」
「うーん、でも簡単にしかわからないから困ってるよ。会計士にも確認したけど、見た目の数値上は問題ないと言われてね」
「問題があるはずなんですか?」
「あるかないかもわからない」
本気とも冗談ともつかない声を漏らしながら、鷹木は再び資料に目を落とした。
机の上には、一般の人間には想像できないほどの桁が積み上がった数字と、難解な専門用語がこれでもかと並んだ書類がいくつも散らばっている。
問題のない範囲で、と前置きをしてから、鷹木が概要を話してくれた。
とある内部告発を受け、行政に第三者調査会が設置された。
調査対象は、全国で介護施設や老人ホームを広く運営している会社だ。業界内でも非常に有名な企業であるため、詩織もその名前をよく知っていた。
詩織が現在勤めている会社よりもずっと規模が大きく、上場している大企業だ。
同じ業界だと聞いて、詩織は興味深そうに資料を覗く。数字はさておき、分からないなりに注釈部分を読み込む。
「わぁ……すごい。流石に大手さんはたくさん施設があるんですね」
「そうだね、全国展開、事業所数は500くらいかな」
鷹木が何気なく数字を口にすると、詩織は印刷された拠点一覧のページを指先でなぞりながら、懐かしそうな声を上げた。
「あ、ここうちの近くの施設です。ここも。交換研修でお邪魔したことがあるんですよね」
「……」
詩織が話しかけるでもなく口にするが、鷹木は反応しない。
手元に目を落としたまま、深く考え込んでいるように見える。
詩織は気にせず、初めて読む決算資料を興味深げに眺めた。
自分の勤め先から業者に支払う金額くらいならわかるが、500施設分を取りまとめるような大規模な会社の支払金額は、雲の上だ。
まとめられた数字はともかく、注釈にはどこをいくらで修理した、何をいくらで新しく買った、などと細かく書いてあるので想像しやすい。
「…………ちょっと待って」
突然、鷹木は椅子から立ち上がり、詩織を見つめた。
いつもの柔和な鷹木らしさは消え、弁護士らしい鋭い眼差しが詩織を真っ直ぐに捉えていた。
「詩織さん、どうして、たくさん施設があると思ったの?」