バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される

第22話:コンマ一秒


 日系の老舗ホテル。
 ロケにも使われる有名な日本庭園の緑の合間を、鷹木は通り抜けた。宵の薄闇に包まれる庭園には灯籠の明かりが灯り、静けさが満ちている。

 仲居に案内され、奥の部屋へと通される。

「お連れ様がいらっしゃいました」
「申し訳ありません。田中先生より早く到着するつもりだったのですが……」

 大先輩を待たせるわけにはいかないと、念のため約束の三十分前に到着した。だが、すでに田中は来ているという。
 鷹木は少し面食らったまま、お辞儀をして部屋へと足を踏み入れた。

「いや良いんだ、私が勝手に先に来た。気にせんでくれ」

 恰幅の良い田中が、上座にどっしりと腰掛けていた。
 隣には、華やかな着物姿の女性が静かに座っている。豪奢な絵柄の振袖。鷹木の記憶には全くない、初めて見る顔だ。
 田中には娘がいない。では、この若い女性は一体どういう関係なのだろうか。
 疑問がそのまま表情に出ていたのだろう、田中は面白そうな顔を隠そうともせず、席を勧めた。

「まあ座りなさい。さあ、飲もう」

 席に着くやいなや、すでに卓上に用意されていた日本酒が、鷹木の前に置かれたお猪口になみなみと注がれる。

「頂戴いたします」

 鷹木はあわてて両手で器を受け取った。

「乾杯」

 田中がくいっと勢いよく酒を煽る様子を横目で確認しつつ、鷹木はほんの少し舐める程度にとどめておく。

「先生、本日はS病院の件で、先生との会食と伺っておりましたが……?」
「ああ、そうだ。先に紹介しよう、西園寺麗子さんだ。君も良く知っているだろう、西園寺判事を」

 西園寺判事。
 知っているも何も、鷹木が今まさに準備を進めている最高裁判所の裁判。それを担当される御仁だ。

「という事は、判事の……?」
「お嬢さんだ。西園寺と俺は大学時代からの友人でな、麗子ちゃんの事も子供のころからよく知っているんだよ」

 説明を聞いても、鷹木の頭の中の歯車は今ひとつ噛み合わない。なぜ、次の大きな裁判の担当である西園寺判事の娘が、この私的な席に同席しているのか。だいたい、S病院の件とは……?

「西園寺麗子と申します。鷹木さんの事はよく存じ上げておりますのよ。先日の、医療事故の裁判で医師側の弁護人としてご活躍された件については、大変感銘を受けました」

 麗子が鈴を転がすような声で微笑む。
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