バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
「え、所長は一緒じゃないんですか?」
翌々日の夕方、事務室で書類を整理していた鷹木は、鈴川の言葉に思わず眉をひそめた。
「うん、田中さんが『今回は鷹木くんだけで良い』って言うからさ」
「ええ……」
これから向かう食事会の詳細を聞き、鷹木は露骨に落胆の息を漏らした。
他事務所の弁護士同士の交流会がないわけではないが、こうした内々の小さな会食に一人で呼び出されることは多くない。
人とコミュニケーションを取るのは仕事柄苦手ではないが、気を使う相手であればそれなりに疲弊もする。もともと、大して行きたくもない会だ。
「まぁ、たまには嫌な思いでもしなさいよ。君、ここ最近ずっと幸せそうな顔をしてるんだからさ」
鈴川がニヤニヤしながらからかってくる。
今日会う田中弁護士は、新聞の一面を飾るような大事件の担当をいくつも歴任してきた、法曹界切ってのやり手だ。
社会派として通っている彼の鋭い意見を聞きたいと、鷹木も若い頃には自ら進んで教えを乞いに行ったこともある。だが、いかんせん自慢話が多い。気の良い人ではあるが、ためになる話が聞けるわけでもない。
自然と足が遠のき、今回顔を合わせるのも実に四年ぶりだ。
「場所は、ホテルNの料亭だよ」
「庭の奥にある、あのお店ですね?」
日系の、歴史ある老舗ホテルだ。
「そうそう。ま、食事が美味いのだけは確かだから」
珍しく夜に会食が入ったことを伝えた時、詩織が『ちょうど良いから、私も同じ日に有希と食事に行ってきます』と笑顔で言っていた。あの顔を思い出す。
今朝、職場まで送った時にも『いってらっしゃい』と微笑んだ。あの柔らかい表情。
詩織のことを考えれば、すぐにこちらも笑顔になってしまう。だが……。
なぜだか胸の奥が妙にざわつく。
冷たく不穏な胸騒ぎがじわじわと込み上げてくるのを、鷹木は抑えられなかった。