バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
彼女が言うのは、少し前に新聞の社会面にも大きく取り上げられた、鷹木が勝訴をもぎ取った事件のことだ。
小児科医が子供の急死を受けて遺族から訴えられた裁判。
争点は、病院側の処置が医療ミスに該当するかどうか、つまり患者の死亡原因と医療行為の間に因果関係があるかという点だ。
専門家とともに徹底的に慎重な事実検証を行った結果、因果関係は認められなかった。
防ぎようのない、急激な病状の変化であったという医師側の主張が通った形だ。
医療ミスではない。
最愛の子供を失った両親のやるせない気持ちは十分に汲むべきだが、それによって過失のない医師が罪を負わされることは避けなければならない。鷹木は医師の弁護人として、徹底的に戦い抜いた。
「素晴らしいご活躍でしたわ。小児科医は減る一方です。万が一の時に訴えられるリスクが、大人の患者に比べて圧倒的に多いですから。このままでは深刻な小児科医離れになるところを、鷹木さんのおかげで歯止めがかかったと言っても過言ではありません」
「恐れ入ります。西園寺さんは医療関係者でおいでですか?」
「いいえ。記者をしております。鷹木さんは弁護士として正義を貫いていらっしゃいますが、私はペンで、あらゆる不正と戦っておりますの」
「それは……ご立派なご職業ですね」
麗子の澱みのない言葉を聞きながらも、この会話がどこへ向かっているのか、その意図がつかめない。当たり障りのない返事をした。
「鷹木君、麗子ちゃんは素敵な女性だろう」
「え、ええ、そうですね」
田中がぐいぐいと酒を飲みながら合いの手を入れる。田中の器が空になれば、すかさず隣から麗子がしなやかな手つきでお酌をした。
「今日は君に、麗子ちゃんを紹介したくて来てもらったんだ」
鷹木の脳が、一瞬で冷えていく。
見合いだ。
この仰々しい振り袖姿も、先ほどからの意味のない褒め言葉の応酬も、すべてそういうことだったのだ。
なぜ一瞬で見抜けなかったのか。のこのこと席に座った十五分前の自分を、今すぐ殴り飛ばしたい。
「先生、大変申し訳ないのですが、私には……」
「まあそう言うな。俺の顔を立てると思って、今だけでもな、麗子ちゃんと話してくれよ」
「ごめんなさいね、鷹木さん。私がうっかり『鷹木弁護士って素敵だわ』と申し上げましたら、田中のおじさまが席を設けてくださいましたの」
麗子は小さく首を傾げて申し訳なさそうな顔を作っている。が、彼女の意志でこの場を仕組んだ事実に変わりはなかった。
「田中先生、私はすでに」
「ああ、いいよ。君のプライベートな話は知らん。とにかく、私の顔を立ててくれ。二人で食事をしてくれればそれでいい。分かったな」