バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
第23話:嵐
「おめでとう、かんぱーい!」
賑やかなホテルのビュッフェダイニングに詩織と有希は居た。きらびやかな照明の下、有希が嬉しそうにグラスを掲げる。
鷹木と正式に付き合い始め、そして本当の意味で身も心も結ばれた。
新しい出発を祝ってくれるという有希との、楽しい時間だ。
「ありがとう。でも本当にいいの? こんなに素敵なホテルのレストランなんて……」
「いいのいいの。私もたまたま、会社でペアのお食事券をもらっただけだから」
詩織は有希の言葉に甘え、目の前に並ぶ色鮮やかな料理に目を細めた。
「で、その後は順調ってことでOK?」
「うん、お陰様で。最初は本当に不安が大きかったんだけど、私の過去のことを素直に話したら、慧さんは全部受け止めてくれて……。今は逆に、どうしてあんなに一人で気に病んでいたんだろうって、自分でも不思議なくらいなの」
「そう言うものよね、恋愛って。一人相撲っていうか」
「ふふ。確かに私、一人でオロオロしてただけだわ」
言い得て妙な有希の言葉に、思わず笑ってしまう。
「……自分の敵は、自分だからね」
「え?」
グラスを傾けながら、有希は小さく呟いた。
「不安の正体って、大抵は自分自身だと思うのよ。もしうまくいかなかったらどうしよう、嫌われて失敗したら、受け入れてもらえなかったら……って、全部自分の頭の中だけで作り出した想像で怖がってる」
「たしかに……そうかも」
詩織は自分の手をそっと見つめた。
介護の仕事中にもそういう瞬間はある。
万が一ここで失敗したら。利用者にケガをさせてしまったら。そう想定して事前の準備をすることは不可欠だが、必要以上に先のことを怖がっていると、逆に緊張のせいで失敗を招くことすらある。
新卒の頃には、よくその悪循環に陥ったものだった。
「結局、自分で勝手に大きくした不安の化け物と戦っているのよ。だから、自分の敵は自分。そうやって身動きが取れなくならないように、ちゃんと素直でいることが一番大事だなって、思うよ。難しいけどね」
己の胸に巣食う不安の正体が自分で作り出したものであるなどと、詩織は、考えたこともなかった。
「……すごいね、有希は」
高校生の頃、自分たちはずっと変わらないと思っていた。
同じ毎日を繰り返し、同じ速度で大人になるのだと、信じて疑わなかった。しかし、いつの間にか、有希はずっと大人になって、先を歩いている。
有希はきょとんとした顔で見つめた。そして、笑う。
「何言ってんのよ、私は詩織から教えてもらったんだよ」
「私?」