バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
田中は鷹木の言葉を遮るように手を振ると、それだけを言い残してよっこらしょと重い腰を上げた。
「じゃあ、あとは若い二人で」
障子が静かに閉まり、部屋に二人きりの沈黙が落ちる。
田中を見送るために一度立ち上がった麗子だったが、向かい側の自分の席には戻らず、当然のような顔をして鷹木のすぐ隣の席へと腰を下ろした。柔らかな絹の擦れる音が、近くで聞こえる。
「西園寺さん。申し訳ありませんが、私には……」
「お付き合いされている方がいらっしゃるのね」
麗子はすべてを察しているような、冷ややかな、けれどどこか楽しげな瞳で鷹木を見つめた。
「……そうです。ですから、あなたとはこれ以上」
「……思い出だけでいいの」
麗子の細い指が、鷹木のスーツの腕に乗せられる。密着する身体から、きつい花の香りが鼻腔を突いた。
「思い出に、今晩、一緒にお食事をしてくださったら、私、それだけで満足します」
執拗に顔を近づけてくる麗子から、鷹木は懸命に距離を取ろうとする。
西園寺判事は極めて厳格な男だ。次の裁判は簡単には進まないだろう。
だが、彼は非常に公平な人物であるはずだ。たとえ娘の個人的な希望に沿わなかったからといって、それだけの理由でこちらに不利な判決を下すような男ではない。……と、信じたい。
ゼロ、コンマ一秒。
最悪の展開を逃れるための最低限のプランを脳内で弾き出してから、鷹木は奥歯を噛み締めて答えた。
「……本当に、食事だけでいいんですね」