バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
「詩織が声をかけてくれたじゃない。一人だった私に」
高校に入学して一週間が経った頃に、初めて有希が登校してきた。季節外れのインフルエンザだったらしい。
すでに、どことなくクラス内でのグループは出来上がっている。
「学校に行くのがすごく不安だったから。あの時、詩織が『一緒にお昼食べよう』って声をかけてくれて嬉しかった。それを話したら『私も、断られたらどうしようって不安だった。でも、有希ちゃんも一緒だったんだね』って」
覚えている。それがきっかけで仲良くなったのだ。
「私、不安な時に誰かに話しかける勇気なんてない。私なら、いくら先生に乗せられたからって弁論大会に出ないし、あんなに頑張れない。緊張してる他校の男子に話しかけようだなんて思えない。失敗が怖いもの」
有希は笑顔のまま続けた。
「詩織と一緒にいるうちに、私は、言い訳ばかりしてる自分に気付いたの。『私にはできない』とか『でしゃばるのは良くない』とか。だから私、詩織を見習おうと思ったんだ」
「……私を」
有希が頷く。
「もともと、詩織はすごく勇気がある人だよ。素直で前向きさもある。あのクソ男と一緒に居るうちに小さくなっちゃったかもしれないけど、でも、思い出せばいいの。ちゃんと詩織自身の中にあるんだから」
「……うん、ありがとう」
親友の温かい言葉が、詩織の胸の奥にしみ込んでいく。
もっと、彼と向き合いたい。これからはいつだって、素直な気持ちを鷹木に伝えられるようになりたい。
「よし、もう一回乾杯しよう」
「ふふふ、乾杯!」
詩織はもう一度、有希とグラスを重ねた。
*
「鷹木さん、今日は本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。田中先生にくれぐれもお礼をお伝えください」
会計は、すでに田中が済ませてくれていた。
財布を開くことなく店を出ることになり、鷹木の胸の内には、無理やり恩を着せられたような釈然としない重苦しさが残る。
明日にでも、同等の金額の商品券を手配して田中の事務所へ送ろうと心に決めた。
ホテルの敷地内にある、静かな離れの料亭を出て、薄明かりだけが頼りの庭園を麗子と二人で並んで歩いていた。だんだんと、本館の方へ近づく。
「あっ……」
不慣れな草履のせいか、麗子が、敷石のわずかな段差につまずいて体勢を崩す。
鷹木は反射的に手を伸ばし、倒れ込みそうになった彼女の身体を両腕でしっかりと支えた。
「大丈夫ですか?」
*