バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
第24話:底へ
どうやって帰ったのか記憶にない。
家に着くと、詩織は手際よく支度をし、客間のベッドの中へ滑り込んだ。
『頭が痛いので客間で寝ます』
リビングのダイニングテーブルの上に、書き置きを残してある。
鷹木とホテルで一夜を過ごして以来、詩織は自然と彼の寝室の大きなベッドで並んで眠るようになっていた。
だが、とてもじゃないが今夜は無理だ。彼の温かい体温を感じながら一緒に眠るなど。
毛布にくるまり、暗闇の中で何度も寝返りを打つ。どれだけ目を閉じても耳の奥でドクドクと心臓が跳ねる。全く眠れない。
カチャリと、静かに玄関のドアが開く音がした。鷹木だ。
あのままホテルに泊まることなく、彼はこの家に帰ってきた。泊まるだなんてありえないと頭では分かっていても、詩織はホッとした。
リビングへ向かう彼の足音を静かに聞きながら、限界まで止めていた息を小さく吐き出す。
机の上のメモに気づいたのだろう。微かな足音が真っ直ぐこちらへと戻ってきた。
客間の扉の前で、ピタリと止まる。
しばらくの間、そのままだった。
ノックをして声をかけるべきかどうか、彼がその場で思い悩んでいる様子が気配から伝わってくる。
やがて、音を立てないようにゆっくりとドアノブが降ろされ、そっと扉が開けられた。
鷹木は足音を消しながらベッドの脇まで近づく。眠っている詩織を起こさないよう気遣いながら、大きな手のひらでそっと詩織の頭を撫でた。
彼に背を向けた姿勢のまま、詩織は震えそうになる身体を必死に抑え込む。
頭に乗せられた手のひらは、いつもと変わらず温かくて優しい。それが、今の詩織には堪らなく苦しい。
やがて、諦めたように手が離れ、鷹木は静かに部屋を出ていった。
*
「え、自習したい?」
「はい。ここには参考書も過去問も揃っていますし、もしよかったら、終業後に少し残らせていただきたくて」
今朝起きた時、すでに鷹木の姿は家になかった。
体調を気遣う優しい言葉とともに『しばらく朝が早いから送れなくてごめん』と書かれたメモが残されていた。
今の詩織にとっては、むしろ好都合だ。
夜もできるだけ彼と顔を合わせずに済むように、終業後の静かな職場で資格の勉強をさせてほしいと、詩織はマネージャーに願い出た。
「うん、戸締りだけちゃんとしてくれれば問題ないよ。熱心だね、頑張って」
朗らかに笑って背中を押してくれるマネージャーに申し訳なさを覚えながら、詩織は無理に口角を上げて笑顔を作った。