バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
『しばらく、退勤後に施設で勉強をする事になったので、帰りが遅くなります。先に寝ていてください』
鷹木へメッセージを送信する。
今日一日、昨夜庭園の陰から目撃したあの光景が、頭から離れなかった。
あの背格好。ほんの少し漏れ聞こえた声。そして横顔。あれは間違いなく鷹木だった。彼を見間違うはずがない。
一緒にいた華やかな着物姿の女性には、全く見覚えがなかった。少なくとも、鈴川法律事務所の人間ではない。
彼女も同じ弁護士なのだろうか?
だとしたら『会合』と言ったのも頷ける。……いや、しかしそんな席にわざわざ振袖を着てくるだろうか。
とすると、彼は嘘をついたのだろうか……。
開いたテキストの文字は、一行として頭に入ってこない。ただ時間だけが虚しく過ぎる。
時計の針が二十二時を回ったところで、詩織は深く大きな息を吐いて荷物をまとめた。
月のない、暗い夜だ。
元夫に追いかけられていた頃のような生きた心地のしない恐怖はもうないが、夜道を一人で歩くのは気を付けるに越したことはない。タクシーを拾おうと、大通りを目指して足を早める。
ふと、行く手の暗がりに一つの影が現れた。
女性だ。
カツカツとヒールの音を響かせ、パリとしたスーツをスマートに着こなしている。化粧が濃いが、目鼻立ちのくっきりとした美人だ。
「朝比奈詩織さんね」
女性は満面の笑みを浮かべ、無遠慮なほどに詩織との距離を詰めて近づいてきた。
「あの……どこかでお会いしましたか?」
すぐには思い出せない。だが、どこかでこの顔を見た気がする。
「初めて会うわ。私、西園寺麗子といいます。B社で記者をしています」
すっと差し出された名刺には、詩織でも知っている有名な週刊誌のロゴが印刷されていた。
「記者さん……私に何か?」
麗子と名乗った女性は、詩織の言葉に答える代わりに、上から下までジロジロと値踏みするような目で詩織を観察した。
それから、厚い唇を吊り上げて笑う。
「いえ、随分と子供っぽい格好をされていると思って。私より三つも年上なのにね」
なぜ初対面のこの女性が、自分の年齢を正確に知っているのか分からない。ただ、その突き放すような物言いや不敵な笑みから、彼女が自分に対して全く友好的ではないことだけは、察せられる。
「用がないのでしたら、失礼します」
詩織がその場を立ち去ろうとした瞬間、麗子の鋭い声が詩織の動きを制した。
「鷹木慧さんと別れて頂戴」