バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
第26話:決意
ハンドルを握る鷹木の手には、うっすらと汗がにじんでいる。
思ったより道が混んでいた。焦りながら、詩織が勤務する介護施設の方向へと車を滑らせる。デジタル時計の表示は二十二時前。ギリギリで間に合うはずだ。
「次を曲がれば……」
何度も詩織を送り届け、すっかり馴染み深くなった道だ。カーナビの画面を見る必要すらない。
前方から順にテールランプが光る。ブレーキを踏んだ。
信号機の手前を見ていると、向こう側から歩いてくる人が見えた。詩織だ。
良かった。駅に向かっている彼女を捕まえられる。
合図代わりのクラクションを鳴らそうとしたその時、彼女は駅の手前にある建物のエントランスへ足を踏み入れる。それから何かを思い直したように、隣にあるコンビニエンスストアへと入っていった。
「詩織?」
追いかけなければと、身体が動きかける。
しかし、信号が青に変わった。車を進め、どうにかスペースを見つけて停車させる。
シートベルトを乱暴に外すと、鷹木は飛び出した。
まだコンビニにいてくれ。
ただそれだけを願いながら、全力でアスファルトを駆ける。肺が燃えるようだった。
コンビニが見えた。自動ドアが静かに開き、彼女が外へと出てくる。やはり、駅ではなく、隣の建物へ入ろうとしていた。
ビジネスホテル。
よく見かける看板だ。
どうしてそんな場所に?
疑問が浮かぶがそれどころではない。走って走って、ようやく詩織の細い腕を背後から掴んだ。
「きゃっ」
静かな夜に、詩織の小さな悲鳴が鋭く響いた。
弾かれたように振り向いた詩織の瞳には、強烈な怯えの色が浮かんでいる。
「け、慧さ……」
驚きに目を見開いた彼女の顔から、みるみるうちに血色が失われ、真っ白に変わっていく。
額から流れる大量の汗を乱暴に拭いながら、鷹木は必死に声を絞り出した。
「詩織……」
彼女の身体がびくりと震える。
鷹木は弾かれたように、自らの手を詩織の腕から離した。
ーーしまった。
うっかりでは済まされないことをしてしまった。
詩織は、元夫の貴大からDVの被害に遭っていたのだ。誘拐事件だってまだ少し前のこと。突然身体を強く掴まれれば、恐ろしいと感じるに決まっている。
「あ……ご、ごめん、怖かったな突然掴んで」
自分でも驚くほど頼りない声が口の端から漏れた。
詩織を安心させなければならない。
自分はあの暴力的な男とは違うのだと、決して危害を加えないと、この場で誓わなければならない。鷹木の頭の中は、その焦りでいっぱいになる。
「大丈夫、詩織が良いって言うまで絶対に触らない。乱暴なこともしない。ただ……」
そこまで一気に捲し立てたものの、今の詩織に対してどうフォローするのが適切なのか、法律の知識をどれだけ回しても答えが見つからない。