バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
詩織は元夫から精神的な苦痛を与えられていた。
誘拐され、暴力も振るわれた。
詩織の傷を誰よりも知っているからこそ、自分の不用意な行動で怖がらせまいと、必死に自分を律しているのだ。
彼の痛々しいほどの配慮に気付いた瞬間、詩織の心臓が、冷たい手でぎゅっと掴まれたように激しく痛んだ。
こんなに優しくてどこまでも気遣ってくれる大切な鷹木を、今、自分は嘘をついて傷つけている。
「いえ、大丈夫ですから」
詩織は声を震わせながらそう言うと、先ほどまで彼に触れられていた自身の腕のあたりをそっと手で包む。
鷹木のせいではない、あなたのことが怖いのではないと、伝えたかった。
しかし、押し寄せる葛藤のせいで、どうしても顔の筋肉がこわばってしまう。
有希の家に泊まっているという嘘が、完全にバレてしまった。
ここから一体どう言い訳したら良いのか、混乱した詩織には見当もつかない。二人の間に重苦しい沈黙が流れ、黙り込む。
鷹木は、その気まずさを打破するように、口を開いた。
「……ずっと、待っていた。詩織と話せる機会を。何があったのか話してほしい。有希さんの家じゃなくて、ホテルにいたのはどうして?」
心の底から声を絞り出すような彼の掠れた響きに、詩織の胸は引きちぎられそうになる。
鷹木はいつも詩織を最優先に、大事にしてくれている。
あの夜、ホテルの庭園でお見合いらしき場を見てしまったこと。
西園寺麗子と彼が抱き合い、そしてキスしているように見えてしまったこと。
麗子に会い、脅迫めいた言葉をぶつけられたこと。
すべてを今ここで話せば、複雑にもつれてしまった二人の糸を解せるかもしれない。いや、彼は何があっても、そうしてくれるだろう。
だが、それが本当に、自分たちにとって最善の道なのかはわからない。
鷹木に頼るだけで良いのだろうか。
己の弱さに負けて、またすべての解決を鷹木に委ねる……そんな弱いままの自分に、彼を愛する資格があるのだろうか。
それにもし、西園寺麗子の言う通り、こんなに優しくて正義感の強い彼の経歴に、自分のせいで消えない傷が付くようなことになってしまったら……。
詩織は溢れそうになる涙を必死に堪え、喉の奥から、乾いた声を絞り出す。
「少し、時間をください。落ち着いたら話しに行きます」
詩織の目の端に映った鷹木の顔は、見たことがないほどに、深く、絶望的に傷ついていた。