バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
詩織はそっと、自分の腕に触れた。
やはり強く握りすぎて痛かったのだ。そして、言葉にできないほど怖かったのだ。
街灯に照らされた彼女の顔は、石のように硬くこわばっている。
よりによって自分が、世界で一番守りたかった詩織を怯えさせ、怖がらせている。最低極まりない現実に、頭の芯が沸騰しそうだった。
胸を焦がすような沈黙を破り、それでも鷹木は震える声を出した。
「……ずっと、待っていた。詩織と話せる機会を。何があったのか話してほしい。有希さんの家じゃなくて、ホテルにいたのはどうして?」
決して嘘を責めているのではない。
ただ、何に傷つき、何に悩んでいるのか、本当の話を聞きたいだけなのだと伝えたかった。だが、今の自分の必死すぎる形相で、その本心がうまく彼女に伝わっているのかどうかはわからない。
しばらくの間、夜風だけが二人の間に流れた。やがて、詩織が下を向いたまま、喉の奥から声を絞り出す。
「少し、一人にしてください。落ち着いたら話に行きます」
鷹木の目の前が、文字通り真っ暗になった。
*
どうやってマンションまで戻ってきたのか、記憶がひどく曖昧だ。
リビングのソファーに深く身体を沈めながら、鷹木は明かりもつけない部屋で、たった一人ぼうっと虚空を見つめて過ごしていた。
時計の針は、とうに零時を回っている。翌日の仕事を考えれば、さっさと眠るべきだが、動く気力が湧いてこない。
元夫のことを、あの男が植え付けた恐怖の記憶を、彼女に思い出させてしまうような真似は絶対にしないと、心に固く決意したはずだった。それなのに。
鷹木は暗闇の中で、自身の忌々しい手のひらを見つめた。
「詩織……ごめん」
誰もいない空間に、思わず掠れた声が口をつく。
自分は今、一体何に対して謝罪をしているのだろうか。その意味を、深く沈むように考える。
怖い思いをさせたこと。
「ごめん」
西園寺麗子と二人きりで食事をしてしまったこと。
「ごめん」
転びそうになった麗子を咄嗟に抱えたとき、うっかりお互いの唇がぶつかってしまったこと。
「ごめん」
そして、その最悪の事故を、今日の今日に至るまで詩織に言えないままでいること。
「ごめん……」
熱く濡れる頬。それすら忌々しい。
大切な人を傷つけてしまった自分には、泣く資格などない。
*