バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
第27話:疑惑
詩織の勤めるデイサービスの施設は、住宅街の一角にある。
表通りから二本ほど奥まった位置。車の往来も少なく、利用者が静かに過ごせるのが売りだ。
しかし、今朝はいつもと違っていた。
大きいカメラや三脚を抱えた人たち、マイクのようなものを手に持った男女が、施設の周囲をウロウロとしていた。
「職員の方ですか?」
「お話聞かせてください」
詩織がいつものように通用口に近づくと、彼らが一斉に寄ってくる。
バシャバシャと何台ものカメラのレンズが向けられた。異様な事態に混乱しながらも、詩織は必死に振り払い、逃げるようにして施設の中へと入った。
「虐待疑惑?!」
マネージャー、チーフをはじめとして、今朝出勤した職員の全員が集められた。
全員の顔が青ざめている。
マネージャーが、机の上に置かれたタブレットの画面を指し示しながら、硬い声で現状を説明した。
「今朝発売の週刊誌に載っている記事の抜粋が、昨夜ネットで公開された。うちの施設で高齢者の虐待があり、頻繁に病院送りにさせられている。職員は隠ぺいか……と言った内容だ」
一瞬の沈黙のあと、職員たちからは憤りの声が上がる。
「嘘ですよ、そんなの」
「ありえない!」
真っ赤な嘘だ。
この施設において虐待の事実など一切無い。
病院へ行くことはあっても、突然の体調不良や高齢者特有の誤嚥、突発的なケガなど、職員がどれだけ注意していても防ぎきれない事象の緊急対応に過ぎない。
「こんな根も葉もない嘘、いったいどこから……」
チーフが唇を噛み締めて呟いた。その時だった。
ーープルルルル。
電話が鳴る。時計の針は午前八時を過ぎた所だ。自動で夜間の留守番電話から切り替わった。
一番近くにいた詩織が受話器を取る。
「はい、ひまわりデイサー……」
『ちょっと、記事に書いてることは本当なの?! うちの母のことも虐待してたんじゃないでしょうね?』
受話器の向こうから、ヒステリックに叫ぶ女性の声が鼓膜を刺した。
「え、あの、このような事実は全くなく……」
『証拠を出しなさいよ、虐待してない証拠!』
一方的に激しい言葉が浴びせられ、言葉を失う。
その間にも、次々と別の呼び出し音が重なっていった。
ーープルルル……プルルル……。
施設に用意してある五回線、そのすべてのランプが赤く点滅し、一斉に鳴り響く。耳を塞ぎたくなるような音が、施設全体をじわじわと包み込んでいった。
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