バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
「あ……」
詩織は目を見開く。
そうだ。
自分は今、自分自身の弱い心の中に作り出した、虚像の鷹木を怖がっているだけだ。現実の、目の前で汗をかいてオロオロと慌てていた、あの愛おしい鷹木ではない。
ガバリと、詩織はベッドから勢いよく身を起こした。
霧が晴れるように、急に思考がクリアになっていく。
「……別れない。あんな女に揺さぶられたからって、私から別れを切り出しちゃ絶対にダメ」
鷹木に大切に守ってもらうことに慣れすぎてしまっていた。
いつの間にか、自分自身の足でしっかりと大地に立つことを忘れていたのだ。
二人にとっての最善は、おとなしく詩織が身を引くことなどではない。
誰に、どんな理不尽な言葉で脅されようとも決して揺るがない『自分は彼の隣にいる』という強い自信を、自分の中に持つことだ。
他人から与えられるものではない。自分の中からしか生まれないものを、しっかりと持ち続けることだ。
「慧さんに頼るだけじゃだめ。私自身がしっかりしなきゃ」
詩織は自身の両手の指先をぎゅっと強く握りしめ、顔を上げた。
明日、鷹木と会って話そう。
隠し事をせず、きちんと自分の本当の気持ちを伝えて、そして、あの西園寺麗子の悪意に真っ向から立ち向かうのだ。
*
ーーパチパチ、パチパチ。
静かな部屋に、キーボードを叩く音だけが響く。
液晶画面の放つ青白い光が、麗子の表情のない顔をうっすらと照らした。
ーーパチン。
最後の行を書き終え、彼女はエンターキーを押し込む。
麗子の厚い口元が、満足げに、ニヤリと上がった。