バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
「何だこの記事?!」
鷹木は、思わず叫んだ。
事務所の執務室。朝のルーティンとして確認しているニュース一覧。そのトップニュースに入っていたのは、高齢者介護施設の虐待事件を糾弾するネット記事だ。
ありふれた見出し。
今までの自分であれば、それほど注意を引くこともなく読み飛ばしていただろう。
だが介護施設という文字を見た瞬間、つい、詩織の顔がちらついて、導かれるようにリンクを開いてしまっていた。
スクロールして中身を読み進めるうちに、鷹木の目は見開かれ、背筋に冷たいものが走る。
そこに書かれている施設の特徴や立地は、間違いなく詩織の勤め先だ。
名称は一応アルファベットでぼかしてあるものの、周辺の環境や建物の規模は克明に書かれており、当事者が見ればすぐにわかる。
詩織の元夫の事件の折り、彼女の弁護にあたって、一度だけ挨拶と確認のために施設へ入ったことがある。
対応してくれたマネージャーは非常に倫理観のきちんとした人物だったし、チーフも人当たりが良かった。何より、あの詩織が誇りを持って働く施設で、こんな非人道的なことが起こるはずがない。
確固たる確信を持ちながら、鷹木は記事の末尾にある署名へと視線を落とした。『B社取材班』とだけ書かれている。
胸の奥からじくじくと、嫌な予感が湧き上がる。
鷹木は、デスクの受話器を取り上げた。
*
「利用者さんですか?」
「この施設に通っていて、怖い思いをしたことはありませんか?」
「ケガをしたことは?」
「入浴介助で熱湯をかけられたという話は本当ですか?」
午前中、利用者が通所してくるたびに、敷地外に群がる記者たちが一斉に大声を出す。
彼らの前に立ちはだかるようにして、マネージャーが声を張り上げた。
「そのような事実はありません。事実無根です。お引き取りください!」
毅然とした対応に守られながら、詩織をはじめとする職員たちが、利用者を次々と施設内へと運んだ。自動ドアが閉まると、外の喧騒が少しだけ遠のく。
「……今日は人が少ないねぇ」
杖を突きながらゆっくりと歩く利用者が、周囲を見回してぽつりと言った。いつもなら賑やかなデイルームは、半分近くの席が空いている。
「ええ、お休みするという連絡が多くて」
詩織が無理に笑顔を作って応えると、彼女は顔をしかめた。
「まったく、みんな意気地がないんだから」