バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
第28話:対決
都心から沿線で一本。
とは言え、一時間近く電車に揺られた先にたどり着いたその駅は、降りる人の姿もまばらだった。
数人の乗客が改札を抜け車や自転車で家路に着くと、静かな夜だけが残る。
改札の外の薄暗い広場に、西園寺麗子はいた。
詩織の姿を認めると、彼女は口元だけで笑う。
「ご苦労様。話の内容は分かるわね」
「記事を消してください。それから、ねつ造であったことを謝罪する記事を出してください」
詩織は真っ直ぐに彼女を見据えた。麗子の話を聞く気など最初からない。こちらの要望を伝えるだけだ。
「見返りは?」
「ありません。あなたが間違ったことをしたんですから、自分で尻拭いをするのは当然です」
「ぷっ。ふはははは」
麗子は突然、腹を抱えて大声で笑い出した。駅前の静寂を切り裂くような甲高い声が響き渡る。
「記事を消してください。見返りはありません。そんなバカみたいな話、通ると思ってんの?」
ケラケラと笑った後、麗子はバッグから細いタバコを取り出して火をつけた。赤い微かな光が、ちりちりと揺れる。
「世の中ギブ&テイクよ。何も差し出さないくせに自分の要求を通そうだなんて虫が良すぎるわ」
「先にあなたが嘘を吐いたんです。あなたは記者でしょう? どうしてねつ造の記事なんか出したんですか。心が痛まないんですか?」
「心? ふふ。バカみたいなこと言うのね」
麗子は口元から大きく紫煙をくゆらせ、冷たく言い放った。
「記者って最高。何でも思い通りになるの。人の感情を刺激するような記事を出せば、社会が勝手に糾弾してくれる」
うっすらとした煙が、麗子の笑顔を歪める。
「あんたこそ、正義ぶっていい子ちゃんのつもり? 元夫を警察に突き出す血も涙もない女のくせに」
詩織の顔からさっと血の気が引いた。
「あんた、一人の人間を地獄に突き落としてるのよ。その自覚ある?」
「……それは、むこうが」
「そういう人間だって、見抜けなかったあんたの責任でしょ。あんたが訴えなければあの男は母親思いの良い息子でいられた。それと同じよ。どこにでも、都合の悪いことの一つや二つは隠れてる。あんたの勤める施設だって、虐待らしいことのひとつも、今までなかったって言いきれる? 病院へ行った人がいるでしょう。他の施設に比べて多いわよね。不注意? うっかり? それだって虐待じゃないって言いきれる? ……記事さえ出せば、おのずとボロが出るわ」
詩織は両手をぎゅっと拳にして握り締める。爪が手のひらに深く食い込み、身体が震えた。