バツイチ×未経験の私は、初恋の豪腕弁護士から極甘に溺愛される
追い打ちをかけるように、夕方に更新されたネット記事の続報には、虐待の主犯格として『介護士のS・Aさん』という具体的な仮名が躍った。
『最近離婚し、その鬱憤を晴らすために利用者に当たっている』と言う立てつけになっている。イニシャルも、境遇も、詩織を指しているとすぐにわかった。
SNSでは『介護士のS・A探し』の投稿が多く寄せられた。このままでは、詩織のことを指していると、いつ知られるかわからない。
夕方になり、利用者を送迎車に乗せる際、再びマスコミの群れにたかられた。
「介護士のS・Aさんはどなたですか?」
「離婚した介護士は実在するんですか?」
何本ものマイクと、ぎらぎらとしたカメラのレンズが、詩織の身体を飲み込もうとしてくる。
恐怖で息が詰まりそうになりながら、送迎車に一人一人乗せていた時だ。
車椅子で車へと向かっていた利用者の斉藤が、叫んだ。
「うるっさいねぇ! そんなの全部嘘っぱちだよ。アタシたちの顔を見たら、虐待なんかされてないって分かるだろう!」
怒鳴り声に、周囲の記者たちが一瞬、シンと静まり返る。
フンと力強く鼻を鳴らしながら、斉藤は車へ乗り込んだ。
彼女の優しさに、詩織の目頭が熱くなる。
だが、ここで涙を流してしまえば、彼らの格好の餌食になってしまう。詩織はぎゅっと、口を真一文字に結んだ。
終業後、更衣室でスマートフォンを確認すると、差出人のないメールが届いていた。
『話したいことがあるでしょう。会ってあげてもいいわ。今夜、西部S線の終電に乗ってK駅で降りなさい』
名前は書かれていない。だが、一目でわかる。西園寺麗子だ。
今夜こそはマンションの家に帰り、鷹木と正面から向き合って話すと心に決めていた。
だが、麗子とのことを話せば彼は弁護士として、そして詩織を大切に思う一人の男性として、詩織の身を案じて行くのを止めるだろう。
鷹木と話したい。
彼に会って、今まで逃げていたことを謝りたい。
それから、どんなに周囲に迷惑をかけるかもしれないけれど、それでも諦められないほどあなたが好きだと、自分の言葉で伝えたい。
そう強く思っていた。しかし……。
「施設に迷惑をかけたまま放って置くことなんか、できない」
詩織は液晶画面の光を見つめながら、端末を強く握りしめた。
もう逃げない。
言われのない汚名を晴らすため、一人でも立ち向かうのだ。