敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった

この感情の正体は 2

 その日の夜。
 寝室で本を読みながらエルフナルドの帰りを待っていると、エルフナルドが部屋に入ってきた。

「エルフナルド様、本日もお疲れ様でございました」

 ユリアがそっと声をかけると、エルフナルドは微笑んだ。

「ああ。今日は早く切り上げたみたいだな」

 昨日より幾分柔らかな声色に、ユリアはほっと胸を撫で下ろした。

「はい。今日はちゃんと時間を気にしておりましたから」
「……そうか」

 短い返事だったが、昨日のような硬さはなかった。
 昨日ほど空気が重くないことに安心して、ユリアは自然と表情を緩めた。

「今日もクリック様に東国の薬草について教えていただいたのです。クリック様のお話は、本当にいつも興味深くて――」

 そこまで言いかけて、ユリアはふと口を閉じた。
 エルフナルドの視線が、ほんの一瞬だけ揺れた気がしたからだった。

「……どうかなさいましたか?」
「いや」

 エルフナルドはそう言ったきり、視線を逸らした。
 ユリアは少し困ったように視線を彷徨わせる。

 ――やっぱり、まだ昨日のことを気にしていらっしゃるのかしら。
 
「あの、やっぱり昨日の帰りの事、怒っていらっしゃるのですか……?」
「……別に、帰りの時間を責めているわけではない」

 ぽつりと落とされた言葉に、ユリアは目を瞬いた。

「……?」
「お前が楽しそうにしているのは良いことだ。クリックと薬の話をしている時のお前は、本当に良い顔をしている」

 エルフナルドは静かにそう言った。
 その声色に嘘はない。
 本心からそう思っているのだと分かる。
 だからこそ、ユリアは余計に分からなくなった。

「では、何を……?」

 思わずそう尋ねると、エルフナルドは僅かに眉を寄せた。

「……分からん」
「え?」
「私にも、上手く説明できない」

 そう言ってエルフナルドは小さく息を吐いた。

「ただ、お前がクリックと話している時、妙に落ち着かなくなる」

 エルフナルドは少し困ったような顔をしながら言った。

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