敗戦国の花嫁 ー愛してはいけない人を愛してしまった
 次の日の朝。
 寝室の扉をノックする音が響き、アリシアが入ってきた。

「おはようございます、ユリア様。昨日はお休みをいただきまして、ありがとうございました。本日より、またよろしくお願いいたします」

 アリシアは昨日休暇を取り、城下より少し離れた市場へ足を運んでいた。
 
「おはよう、アリシア。お買い物は楽しかった?」
「はい、おかげさまで欲しいものがたくさん買えました。これは、ユリア様にお土産でございます」

 アリシアはそう言って、小さな包みをユリアへ差し出した。

「あら、これは何の種なの?」
「最近、城下で流行っている花なのだそうです。花の色が淡いブルーだそうで、とても綺麗だと伺いました」
「ありがとう!」

 ユリアは嬉しそうに包みを見つめた。
 
「そういえば、昨日はクリック様も一週間ぶりに王宮を訪ねられたのでは?」
「そうなの。新しい薬草同士の煎じ方を教えていただいたの。東の国の本も頂いてそれをクリック様と読んでいたのよ」

 その話をするユリアの表情は、自然と明るくなっていた。
 
「お二人は薬草のことになると本当に楽しそうになさいますね。ちゃんと夕刻にはお部屋に帰られましたか?」

 アリシアがそう尋ねると、ユリアは少し気まずい顔を見せた。

「……いつもアリシアが早めに声をかけてくれるものね。昨日はセルビアが声をかけてくれたみたいなんだけど、全然聞こえてなかったみたいで、遅くなってしまって……」
「え? 陛下が心配なさいませんでしたか?」
「……うん、エルフナルド様が、直接薬事室にお迎えに……」

 アリシアは少し目を丸くした後、静かにユリアを見た。

「遅くなってしまったことをお詫びしたんだけど、気にしていないって。でも、なんだか少し怒っていらっしゃるようで……。やっぱり気をつけないとダメね」
「……本当に、それだけでしょうか?」
「え?」

 ユリアはきょとんとした顔でアリシアを見返した。

「いえ。なんでもありません」

 アリシアは一度言葉を飲み込んだが、ふっと小さく笑った。

「ですが、陛下が薬事室まで直接迎えに来られるなんて珍しいですね」
「そうなの」
「よほどユリア様のことが気になっていらっしゃったのでは?」
「心配をおかけしてしまったのかもしれないわ。でも昨日は本当に楽しかったの! クリック様といただいた本を読んでいたら、止まらなくなってしまって……」

 楽しそうにそう語るユリアに、アリシアはなんとも言えない顔をした。

 ――やはり、ユリア様はお気付きではないのね……。

 アリシアは心の中で小さく呟いた。

「夕方は私、お迎えにいけませんので、くれぐれも帰りのお時間、お気を付けくださいませ。昨日のこともありますので」
「ええ。今日はちゃんと時間を気にするから大丈夫よ」

 ユリアは少し反省したように苦笑した。

「クリック様とも、今日は早めに切り上げましょうってお約束したの」
「……それは何よりです」

 アリシアはそう返したものの、その表情はどこか複雑だった。
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