結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~

おひとり様の卒業

「青山」

 笹島さんが押しかけてきた翌日。悶々とし重苦しい気持ちを抱えながら仕事をこなしていると、企画部で一緒だった岡本君に呼び止められた。

「ちょっと聞いてくれよ」

 懐かしいフレーズに、デスクを並べて一緒に働いていたときがよみがえってくる。
 なにかにつまずいたり、上司に対する鬱憤が溜まったりしたとき、彼はよく『青山、ちょっと聞いてくれよ』と声をかけてきた。そのまま一緒に飲みに行き、愚痴を言い合った夜もある。

 ちょうどお昼の休憩に入るところだったため、ふたりで社員食堂へ向かう。あまり周囲に聞かれたくない話なのか、彼は端の席を選んだ。

「青山がメインで作った口紅があるだろ?」

 食事を半分ほど食べたところで、岡本君が唐突に切りだした。

「そのプロモーションなんだけどさあ、起用しているタレントがあとワンシーズンを残して、急に契約解除を申し入れてきた」

「え?」

「うちにもタレント側にも、契約違反があったわけじゃない。ただ一方的に、プロダクション側から打ち切ってきた」

「ネクストアーツプロダクション、よね?」

 そうだとうなずかれ、鼓動が嫌な音を立てた。

 まさか、笹島さんの件と関係しているのだろうか。
 たしか彼女は、『すぐに別れないなら、進藤にどんな影響があるのか……』なんて、脅しめいた言葉も口にしていたはず。まさか、翌日にもう行動を起こしたのか。

「別のタレントをと依頼しているが、ネクストアーツは出せないの一点張りだ。もしくは、NAOの起用を押してくるばかり」

「笹島さんを?」

「ああ。さすがに実績も知名度もほとんどないタレントを、あのブランドで起用することはできない」

 これまでは、ブランドイメージに合う実績のあるタレントを選んできた。なにか光るものがあるのならともかく、社長の娘だからという理由だけでは決められない。
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