結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「聞いてるの?」

「え、ええ」

 つい考え込んでしまっていると、苛立ったように問い詰められた。

「冬馬さんは今、海外へ行っているんです。だから、私ひとりでは勝手には決められません」

「そんなの、関係ないじゃない! 離婚届を書いて、進藤のおじ様に渡しておけばいいのよ」

 勝手な主張に、眉をひそめそうになる。

「少し、時間をください」

「私にそんな暇はないのよ。いい? すぐに別れないならどんな影響があるのか、よおく考えることね。覚悟が決まったら、ここに連絡をしなさい。長く待つつもりはないけれど」

 用紙を無理やり私に押しつけると、彼女は私の返事も待たずに背を向けた。

 突然の話に、どうしていいのかわからない。会長に報告するべきかとも思ったが、約束もなく簡単に会える人でもない。

 冬馬さんがかなり忙しいのは知っているし、彼は今海外にいる。さすがにこの状況では相談しづらい。

 彼の帰国は今週末になる。帰ってきたらすぐに打ち明けるつもりだけれど、笹島さんはそこまで待ってくれるだろうか。

 重い足取りで、駅に向かって歩きだす。
 考えてみれば、冬馬さんの悪評はもうすっかり払拭されている。愛妻家アピールも上手くいっているようで、彼が女性関係で煩わされたという話も聞かなくなった。

 副社長がキャンセルした、キャラクターデザイン会社の常田社長との会食もよい結果を出せた。なかなか気難しい方だと有名だが、冬馬さんは彼にずいぶんと気に入られている。『社長のおかげで、今回の案件ではこちらが望む以上の回答を得られました』と、現場の人間から感謝の声があがっているほどだ。

 ほかにも、社長のおかげで……ということがいろいろとあり、社員は以前よりも冬馬さんを尊敬し、慕っている雰囲気は肌で感じるほど。

 冬馬さんを取り巻く社内の雰囲気は、これまでにないほどいい。今の彼に、社長にふさわしくないという人はもういない。親会社である進藤ホールディングスへの異動も、スムーズにいくだろう。

 私が妻でいる必要は、まだあるの?

 不意にそんな疑問が浮かんでくる。
 離婚したとなれば、たしかに体裁が悪い。でも今の彼の評判を前にしたら、些細な事なのかもしれない。
 時間をおいて笹島さんと再婚し、彼女との良好な関係をアピールしていけば、私の存在なんて周囲の記憶からすぐに消えてしまうだろう。

「離婚……するべきなのかな」

 そう口にした途端に、涙がひと筋頬を伝った。



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