Sugar&Milk
降りる一つ前の駅で電車が停車しドアが開いた。ドアに近い吊革に掴まって立っていた私は、乗ってきた男性と目が合い一瞬息が止まる。目の前に立ったのはカフェの男の子だった。
「あ……」
彼も驚いて目を見開く。
「こんにちは……」
「どうも……」
なんだか気まずい空気を感じてすぐにでも離れたかったのに、それなりに混んでいる車内で移動するには遅すぎた。どんどん乗ってくる人に押されて彼と体が近づく。そのうち電車は動き出してしまった。彼も迷った末に私の前の手すりに掴まった。
「…………」
「…………」
こんなとき何を話したらいいのだろう。そもそもカフェ店員とたまにしか行かない客が店の外で会って話す必要もないのだけど、私とこの子は話をしないのも何だか妙な雰囲気になってしまった。
「これから会社に戻られるんですか?」
気を遣って彼から話しかけてきて恐縮してしまう。
「はい……」
「僕は今からバイトです」
「そうなんですね……」
では電車を降りてからも改札までは一緒に歩かなければいけない空気じゃないか……。
次の停車駅を告げるアナウンスが車内に流れほっとする。電車が停車し降りると気まずいまま改札まで無言で歩いた。
「じゃあ、私こっちなんで……」
改札を出ると私は会社の方向へ体を向けた。
「待ってください!」
また呼び止められ、びくりと足を止めた。
「あの、あの……」
「何か?」
「この間のお礼を……」
私は目を見開く。
「いや、いいですよそんな……お礼をしてもらうほどのことではないので……」
「僕はお礼がしたいです!」
引く気配がないことに戸惑った。別にどうってことはない。ちょっと手伝っただけなのに、この子は大袈裟に受け取ってしまったのだろうか。