口の悪い、彼は。
 

「今日は昼から企画の仕事が入っててさ。営業2個行って話だけつけて戻ってきた。昼から企画の偵察に行くことになってるんだけど、超楽しみですでに企画意欲が超湧いてんの!」

「わ!また企画のプロジェクトが始まるんですね!最近結構頻繁に呼ばれてますよね?私、喜多村さんの考える企画が好きなので、すごく楽しみです!」

「マジ?高橋にそう言われたら俄然ヤル気も湧いてくるってもんだし!」


いひっと喜多村さんが笑った。

喜多村さんは大学で建築の勉強をしていて、時計好きもあって卒論では世界の大時計の建築について研究していたらしい。

その知識と喜多村さんの突出したアイデアを買われて、営業で採用されたにも関わらず、企画にもたまに引っ張り込まれるのだ。

私が入社した頃はそんなに頻繁ではなかった企画からの呼び出しも、今ではかなり頻繁に呼ばれているようだ。

営業と企画との両わらじなのに営業成績も上の方にいるからと、部長始めもっと上の先輩方からも一目おかれている。

ちなみに私のお姉ちゃんも大学で建築の勉強をし、今はバリバリの建築家だ。

ふたりが結婚したら、きっと素敵なおうちを建てるんだろうな~、と今から楽しみだったりもする。


「あ、そうそう。ちょっとおもしれぇもん見たんだって!」

「へ?何です?」

「昨日の夕方、真野部長を外で見たんだけどさ」

「!」


喜多村さんの口から部長の名前が出てきて、心臓がどきんと音をたてた。

喜多村さんはすごく楽しそうな笑顔を浮かべている。


「それがさぁ」

「は、はい……」


喜多村さんはニヤニヤと愉しげな表情で、その続きをなかなか口に出さない。

その口からどんな部長に関する言葉が出てくるのだろうか?と私の心臓がドキドキと速まっていく。

 
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