LOVE SICK
暖かくなってきて衣替えの季節を迎える頃。

クールビズがすっかり浸透したお蔭で、街行く黒づくめだった会社員の男性達はスーツのジャケットを脱ぎ始めた。

見た目も暑苦しく無いし、ジャケットを脱いだ瞬間の男の人は少しいつもと違って素敵に見える。
まあ、それは夏も盛りになれば見慣れてしまうものだけど。
それでもちょっとしたときめきは変化の無い日々には大事なモチベーションの元になる。

クーラーが効きすぎることも少なくなって、真夏日に寒さ対策の為にウールのストールを持ち歩くなんていう無駄な事をしなくて良くなったのもとても嬉しい。
ただでさえ、女性の仕事鞄の中にはメイク道具や身だしなみグッズが所狭しと入っていて、いつだって男性以上に荷物が多いのだから。

そんなどうでもいいことを、私はいつものカフェで順番を待ちながらのんびり考えていた。


下ろしたての明るいベージュのスーツに身を包み、ロングの髪をふんわりと巻いて、もう慣れた清楚で薄く見えるメイクをしっかりとして、爪先もネイルサロンで淡いベージュピンクに仕上げてもらったばかり。

今日の仕上がりは私の中では中々完璧に近い方。

あと一つ、完璧に足りないものは、頭にまだ僅かに残るだるさ。眠さ。
これが抜ければ出勤の準備は完璧だ。


毎朝、出勤前にカフェで一杯のコーヒーを飲むことを習慣付けたのは、朝が得意で早起きをしてしまうからでは勿論なくて、人一倍朝が弱い私が眠気を取り払うのには人一倍時間がかかるから。

この時間の余裕を持ってなかったら、今迄何回遅刻したかなんて分からない。

一昔前に流行った『朝活』が出来る程にはこの時間の私の頭は残念ながらよくできていない。

だから、ただ一人、ゆっくりとコーヒーを飲んでぼんやりする。

その為だけの時間だったりする。



けどこの時間が、一日の中で一番好き。

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