食人姫
「なんだか騒がしいと思ったら、二人とも起きたんだね」


しばらくして、襖を開けてエプロン姿の光が笑顔で仏間に入って来た。


「お、お兄ちゃん!大輔君が私を襲った!きっとエッチな事もされちゃったよ!」


ドンッと、追い打ちが腹に加わり、俺は布団の上でのたうつしかできなかった。


「ふふ、由奈が大輔の布団に潜り込んだんだよ。見てごらん。由奈の布団はそっちに敷いてあるでしょ?」


そう言い、由奈の背後を指差した光。


いや、笑ってないで俺の心配をしろ……。


そして、光に言われて、やっと自分が移動していた事に気付いた由奈は、顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにうつむいた。


「もうすぐ朝ごはんが出来るから、二人ともおいで」


そんな俺達を見て、クスクスと笑いながら、光は隣の部屋に戻った。


くそう……朝の目覚めは美女のキスじゃなく、男みたいな女のパンチでしたなんて、洒落にならねえよ。


1日の始まりがこれじゃあ、今日は良い事がなさそうだ。


床を這い、隣の部屋に助けを求めるように移動した俺は、テーブルに並べられた朝食の匂いでホッとする事が出来た。


腹は痛いけど、腹は減った。


昨日はろくに夕食も食べてなかったから、目の前の料理を今すぐにでも食べたいほどだった。
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