ご懐妊は突然に【番外編】
「どうぞー」

ダイニングテーブルに座ると、燁子さんは柚子蜂蜜茶を出してくれた。

「ありがとう」

息を吹きかけて冷ましながら一口いただく。柚子のよい香りがしてほんのり甘く美味しかった。

「狭くてビックリしたでしょ」

燁子さんはバツが悪そうに、てへっと笑う。

確かに外観は古いけど、部屋はリフォームされていて思ったよりもキレイだ。間取りは1LDKで、ゆうに50平米はあるだろう。

2人で暮らすには妥当な物件だ。

「いや、普通でしょ」

私が素で答えると燁子さんは「ええ?!」と驚いて目を見開いた。

「だって私の部屋よりも狭いよ?!」

やっぱり、燁子さんも葛城家の人間だ。

「でも私と匠さんが暮らしてた離れもこんなもんじゃない」

まあ、確かに、と言って燁子さんは納得したご様子だ。

「匠ちゃんがあの狭い離れで生活するなんて、よっぽど遥ちんの側にいたいんだね」

燁子さんはしみじみと言って柚子蜂蜜茶をズズッと啜る。

「それで、双子ちゃんは何月に産まれるの?楽しみだねえ。きっと可愛いんだろうなあ」

燁子さんは目をキラキラさせて尋ねる。

「5月に産まれる予定よ。会いに来てあげてね、燁子おばさん」

私は目立ってきたお腹をさすりながら言う。
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