粉雪
『乗れよ!
別に、何もしねぇから。』


「…勘弁してよ…!」



この男、意味わかんないし…!


睨みを利かせたあたしは、逆に男の真剣な顔に何も言えなくなった。



「…わかったよ。
乗れば良いんでしょ?」



どーせヤリ逃げされたところで、あたしは痛くも痒くもないんだ。


ため息をついて、車に乗った。


バタンと閉まった瞬間、暖房の熱気と香水の香りに包まれる。




『…とりあえず、乾かさないと風邪引くよ?
俺んち近いし、それで良い?』


「…勝手にしてよ。」



“ヤられるのに、場所なんて関係ない”



そう思い、煙草を取り出した。


だけど染み込んだ雨水の所為で濡れた煙草は、ただのゴミと化していて。


カチカチと、ライターの音だけが虚しく響く。



「…火つかないや…。
煙草持ってない?」


仕方なく諦め、湿った煙草とライターを鞄に戻した。



『…セブンスターでいい?』


「どーも。」


男の差し出した煙草とライターを受け取りあたしは、窓の外を眺めて火をつけた。





ねぇ、あたし達の出会いは、今日みたいな雨の日だったね。


あの頃のあたしは、毎日をただ生きてるだけだった。


簡単に知らない人の車に乗ったのだって、

人生がどーなったって構わないからってだけ。



あなたに出会って、あたしはもぉ戻れないよ―――…



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