月夜の翡翠と貴方


眠そうな目をして、こちらを見ている。


「寝ないの?」


私は、真上の月を見上げていた。

そして、彼に買われた日の夜を思い出して、彼を見つめる。

覚えて、いるかな。


「…………ルト」


橙と深緑が、ぶつかる。

私は少しだけ、笑った。



「……私はもう、逃げられないからね」



その言葉に、ルトは驚く。

そしてすぐに、ふ、と笑って。



「…逃がすつもりも、ないよ」



翡翠葛は、笑う。


月明かりに照らされて。

光る碧の髪を揺らして。


舞う、花びら。

隣にいる、あのひとへ。



その名をくれた、愛しいひとへ。










Fin.
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